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「うん、もうすっかり分からなくなったみたいね」
仕事から帰り、洗面所で化粧を落とす。
鏡に映った自分の顔を見て、私は一人頷いた。
保護された当時、私は全身をはじめ顔も醜い傷だらけになっていた。これでは、知り合いが私を見ても分からないだろうと思うぐらいに。
しかし、現代の医療技術は素晴らしいもので、今ではすっかり当時の傷は消え失せている。すっぴんの状態でも全く気にならないぐらいに、私の傷は治っていた。
「さて、晩御飯の準備でもするか」
洗面所を後にして台所へ向かう。ちょうどその時、インターホンが鳴った。
彼だと思い、玄関の扉を開けた。
「ただいま」
やっぱり、思った通りだった。
「おかえり」
微笑んで私は彼を迎え入れる。
こんな状態の私だけど、実は今、同棲している彼がいるのだ。
清井実……彼は私より3つ年上(仮)の公務員。
彼は、私が新たな戸籍を取得する時に何かとお世話になった役所の人だった。住む場所や仕事も斡旋してくれて、本当に感謝してもしきれない。
彼は記憶が無い私を何かと気遣い、こまめに様子を見に来てくれた。他に頼れる人がいなかった私は、彼の優しさに縋った。
そうしている内にお互いに好意が芽生え、今ではこうして一緒に生活している。
「お、今日は肉じゃがか。良いね、美味しそう」
お風呂から上がった彼が食卓に並ぶお皿を見て嬉しそうに笑った。私も笑顔で返す。
「でしょ? 今日はちょっと良いお肉が手に入ったの」
「へえ、楽しみだなあ」
「ふふ、早く食べましょ」
二人で向かい合い手を合わせて「いただきます」と言う。そして、箸を手に取り夕食を食べ始めた。
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