私(仮)

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「芙蓉さん、まだダメだよ」 「え? どうして?」 「今の君にはまだ迷いがある。それが晴れない限りはダメだと思う」 「迷い……」 「俺に気を遣ってくれてるのは分かるし、嬉しい。  でも、君は君の人生を大事にするべきだと思う」 「それってどう言う意味?」 「もう一度、失った過去に向かい合ってみてはどうだろう。  もしかしたら、過去の君は既に誰かと結婚していたかも知れない。  もしかしたら、今も君を探している元の家族がいるのかも知れない」 「……」 「それらと向かい合って、その上でプロポーズを受け入れてくれるのなら、  僕は本当に嬉しい。  でももし、君が過去を取り戻して元も場所に戻りたいと思うのなら、  僕は笑顔で君を見送る」 「実さん……」 「僕としては、何があっても芙蓉さんの幸せを願ってるから。  それだけは忘れないで欲しい」 「実さん、ありがとう」  彼の言葉に私は涙ぐみながら頷いた。  彼は……実さんは本当に誠実な人だと思う。  外見はお世辞にも整っているとは言えないけど……って、それは私も人のことを言えないか。とにかく、彼の笑顔はいつも私の心に安らぎを与えてくれた。  この人を好きになって良かった。この人に愛されて本当に良かった。心からそう思っている。  だからこそ、私は自分の過去と向かい合おうと心に決めた。  思えば、今までずっと避けていたような気がする。過去の自分を知ることを恐れていたのだ。それがなぜなのか、今の私には分からないけれど。
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