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俺
俺の名前は下堂賢雄。年齢は33歳。
都心にあるいい感じのマンションに妻と娘の三人で住んでいる。
といっても、妻の美杏とはまだ籍を入れてない。内縁の妻というやつだ。
これには大きな理由があった。
俺が、まだ前の妻・葉須美と離婚できていないからだ。いや、この言い方は正確ではないか。戸籍上では、俺はまだ葉須美と夫婦のままなのだから。
彼女は5年前に行方不明になった、ということになっている。
行方不明になってから7年以上が経ってないと失踪宣告をすることができない。
だから、その時が来るまで俺は美杏とは結婚できないのだ。
けれど、ずっと事実婚のような状態にあったので彼女からは特に大きな不満は出てきてない。
「葉須美と結婚したのも、もう6年前のことか」
カレンダーを見て、ポツリと呟く。
その昔、俺は売れないホストをやっていた。ホストと聞くと、客の女に大金を貢がせて自分は豪遊しているイメージがあるが、そんなのはほんの一握りだ。大半は常に金欠に喘いでいる。俺もそんな底辺ホストの一人だった。楽に稼げると思って入った業界だったが、とんだ見当違いだった。
そんな中、客の一人として現れたのが葉須美だった。
彼女は俺に惚れ込み、惜しみなく金を使ってくれた。
やがて俺との結婚を夢見るようになった。
俺は、彼女の想いに応えた。
そして彼女への誠意として、結婚を機にホストを辞めた。
……と、これは表向きの話。
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