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明けた朝、俺は警察署に行った。
『昨夜、夫婦喧嘩をして妻が怒って出て行ってしまった。
それ以来戻ってこないし、連絡もつかない』
そう言って、俺は葉須美の行方不明届けを出した。妻の身を案じる夫として精一杯の演技をした。
思った通り、警察の反応は鈍いものだった。成人した人間による自発的な家出として扱われた。直前に夫婦喧嘩をしていたので失踪の理由も明確だ。
そうなると、警察は積極的に捜査しようとはしない。そうしている内に、海から葉須美の遺体が上がってくるだろう。
状況的からして、葉須美の死は車の操作を誤って海に落ちた事故として処理されるだろう。……と、俺はそう読んでいた。
だが、いつまで経っても葉須美の遺体は発見されなかった。
車ごと深い場所に沈んでしまったのだろうか。
1週間経っても、1ヶ月経っても、発見されないままだった。
こうして葉須美は、完全に行方不明者として扱われることになった。
俺にとって、それは大きな誤算だった。
葉須美が行方不明者として存在している限り、保険金は降りない。離婚もできない。
困り果てた俺は、美杏に全てを打ち明けた。
すると彼女は、7年待つことを提案した。
『7年経ってから葉須美の失踪宣告をすれば良いのよ。
そしたら死亡が認められて保険金が降りるし、離婚もできる。
それから改めて私たちは結婚しようよ。それまでは事実婚ってことで良いから』
それが彼女の提案だった。
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