僕が帰る場所

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 退院する頃、実家に住み続けるのに抵抗があると悩んでいると母が書類を持ってきた。父が逮捕された関係で色々動いてくれていたらしい。もちろん入院費も。久しぶりに会う母は何だかはつらつとしていた。  「やっぱり結婚は地獄よ。千里とくるみに会えたのは最高だけど」  「……うん。元気そうに見える」  「あんたもなるのよ」  ばさっと書類を千里の膝に置いて母は断言した。  「これ、私が母から継いだ物件。2LDKの2階建て一軒家。あげるわ」  「え!? そんなあっさりあげるって言われても」   母は苦い笑みを浮かべて懇願(こんがん)するような目で千里を見た。  「私は母として何にもしてあげられなかった。千里が私達を思ってお父さんの方を選んだこと、わかっているわ。でも、今回一歩間違えば命を落としていた……これは私の我が(まま)。せめて今後、千里が自由になる家を受け取ってほしい」  千里は断ることができなかった。実際悩んでいたタイミングでもある。そうして千里はこの一軒家を手に入れたのだった。  千里はホットサンドをかじりながら幸せなため息をつく。家をもらって最初に買ったのは本棚だった。初めの一冊を棚にいれた時、涙が出た。生活をゆっくり、ゆっくり変えていって、家の中は妥協しないで整えた。外で何があっても帰ってきたら“自分”に戻れることを念頭に。紅茶を一口、目を細める。  望まない人付き合いを辞めて、独り身で千里はこんなに幸せだ。自然体の自分にしてくれる家。千里の城。今日も家に帰って緊張して疲れた心と体を解き放つ。  「ただいま」
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