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①八神 璃玖
授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る。放課後になれば、塾へ行くためにすぐに帰る生徒、友達と遊ぶ予定をたてながら話す生徒、部活に青春を捧げる生徒が散り散りになる。
そんな中、私はきっと、そのどれにも当てはまらず、ただ時間をぼんやりと消化させるばかり。
---つまらなくて、空虚だ。
「璃玖!」
そんな喧騒を耳に流し込んでいれば、遠くから私の名前を呼ぶ声が聞こえる。既に部活に行くために体操着に着替えた彼が、こちらに向かって手を振りながら近づいてくる。
「---彗。今日も部活なんだ、大変だね」
美川彗。眩しい程の笑顔に、バレー部に所属して伸びに伸びた身長。大きな掌。鍛えられた筋肉。かなり顔立ちの整った爽やかな造形は、数多の女の子を虜にしているだろう。
「璃玖、部活前に。いつもの頂戴?」
「---うん、いいよ」
人目につかないように、そっと階段裏の仄暗いスペースに移動して。“いつもの”ルーティンをやり慣れたようにしてみせる。
---ほんの僅かに触れる、唇。
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