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どうも、竹から生まれた女です!
故郷でのちょっとしたやらかしがきっかけで、異世界転移かつ赤ちゃんからやり直し、しかもスタート地点は生き物のお腹の中でも卵でもなく竹!
なぜ竹だったのか……。
生身で投げ出しておくより頑丈で、野生の獣に食べられる心配がなさそうだったからかな?
優しさは竹の形をしている。
ところで当時の私、竹を突き抜けるほど光って目立っていたみたいで、気になったおじいさんが手にしていた鎌ですぱっと切ってみたら、あらかわいい! かわいい赤ちゃんが! と見つけてくれたそうです。
ただ、中身不明の段階で、竹をすぱっといく切れ味の鎌で切ったのは少し大雑把かなって気がしなくもないです。当たりどころ悪くて中身の私ごと切断していたら、見なかったことにしたのかも? 私、運が良かった!
ちなみに、同じような境遇で自称「桃から生まれた男」にも会いました。
「俺は出刃包丁で叩き割られたけど、桃の中でするっと回避していたから無傷だった」
って言っていたけど、何そのマウント。自分は自ら運命に立ち向かい打ち勝った、みたいなこと言いたいの?
負けず嫌いな男だな……と、思ったんだけど、桃男は知り合って以来幼馴染気取りで縁側にしょっちゅう遊びにくるんです。私は私で煙たがりつつ適当にあしらっていたんだけど、仲は悪くなかったと思う。
そこから数年、お互いそれなりに成長して子どもではなくなった頃、突然桃男からあらたまった様子で「鬼退治に行く」って打ち明けられたんです。
「鬼ってなに? 私もついていっていい? 光るくらいならできるよ?」
何はともあれ、こんな興味深い案件を逃してはなるものかと、私は身を乗り出して自分の特技について伝えてみました。だけど、眉目秀麗なる言葉のよく似合う青年に成長した桃男は、眉をしかめて首を振って言ったのです。
「犬か雉か猿だったら連れて行くんだけど、姫はかわいい女の子だからな」
「んっ? 犬・雉・猿>>>かわいい女の子なの? 認識おかしくない?」
どう考えてもそのへんの獣よりは強いよ? 道具も武器も使えるし、言葉での意思疎通も可能だし、光ることもできるし。夜でも明るいって重要じゃない?
その意味で、私は桃男に申し出てみました。
「私を連れていくと、夜すごく便利だと思う」
なぜか桃男は目をそらして「そういうのはいいから」って、私のありがたい申し出を曖昧にしながら蹴ったのです。
そして、「鬼退治が終わったら、言いたいことがあるから待ってろよ!」と言い残して去って行ったのでした。
* * *
待っていてもいいなとは思っていたんだけど、私は私でその後大変だったんです。
求婚者が何人も現れたり、帝が友達になりたがったり。
桃男のとき同様、煙たがりながら適当にあしらっていたんだけど「結婚する気は全然ない」と言っているのに、押せ押せでひとの話を聞かない求婚者たちには閉口しました。
しまいに五人で争いはじめましたが、私の所感としては「誰が勝っても私が結婚しない時点で『勝者』にはなれないですよ~って言ってるのに、競う意味なくないですか?」でして。
これもうなんで揉めてるのか、どうしたら決着つくかよくわからないですね~ってさすがに困ってしまいました。
見かねた故郷のひとから「迎えに行く」って知らせがきました。
竹から生まれ直して人間として生きてきたわけだけど、まあまあ合格ラインだから、そろそろ月に戻ってきていいよ、だそうです。
桃男がまだ帰ってきてないんだよなぁ……
まさに後ろ髪ひかれる思いでしたが、求婚者たちはうるさいし、帝もうろうろしているし「こちらのことは気にしないでいいから、もう帰りなさい」と育ての親が言ってくれたので涙ながらに別れて、私は月へと帰ったのです。
* * *
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