Side B

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Side B

 私はこの、オルゾと呼ばれた星のオルゾと名付けられた町から、何隻かの船が遠くに飛び立つのを見上げていた。そうして平行に世界を眺め、これまで金色に輝いていた平原がすっかり岩の、そして鉱物の色に染められているのを眺めた。きっとこれが、荒涼とでも表現されるべきものだと私のシナプスは告げた。自転がもたらす風にそよぐものなどなにもない、動かない地面。  そしてふと、400年前はこのような景色だったのだろうかと思いを馳せる。昔からこうだったのだろう。今はそのように腑に落ちた。  今も上空からはたくさんの兵士が降り落ち、世界を茶や黒に染めていく。そしてやがてそれは一つのところに集まった。つまりひときわ大きな地面に突き刺さる巨大なオルゾ鉱石は、彼らをただ、静かに眺めおろしていた。  400年。  オルゾ星において経過した400年という時間は、オルゾ星にとって長かったのか短かったのか。きっとオルゾ星という意思が存在したとしても、その判断はつかないだろう。星にとっては恐らく、その程度の時間は誤差に過ぎないほどの短さなのだから。けれどもその誤差がこの星に与えた変化は劇的で、その姿をまるで変えるものだった。そして兵士たちの中心らしき一体が巨大な鉱石の前に進み出る。そして全ての兵士が降り立つのを静かに待っている。  400年。  この兵士たちにとってはどれほどの時間だったのだろうか。  一番前に立つそれははじめに輸出されたオルゾ鉱石の体を持っていた。いや、厳密に言えば鉱石そのものだ。  オルゾ鉱石は生きていた。ボルボックスのように群体を形成し、そのネットワークによって緩やかな思考を共有し、人とは異なる形態でこの地表及び地中で眠るように静かに存在していた。もともとはその伝達性能から通信媒体に用いるためにオルゾ星から輸出され、そしてよりよいネットワークの構築のための研究が行われた際、オルゾ鉱石の1つが明確に自我を持った。その鉱石は他の鉱石との間で情報網を構築し、情報を共有することによって相互の計算速度をありえないほど向上させ、自らを新たな物質として再構築し、そうして自立して宇宙を移動することすら可能となった。  400年。  兵士たちはそれより遥かに短く生まれ、既にそれより遥かに長く存在していた。彼らの体は一つの結晶体であり全ての集合体であるオルゾ鉱石でできている。  兵士の代表はその巨大なオルゾ鉱石に触れる。 「ただいま。私は戻りました。だいぶん様子は違ってしまったけれど」  その一塊のオルゾ鉱石はそう呟き、自らのネットワークを巨大なオルゾ鉱石と繋ぐ。 「おかえりなさい。既に私たちは同じものです」  その瞬間、オルゾ星全てのオルゾ鉱石の間でネットワークが生成され、全ての宇宙から降り落ち帰還したオルゾ鉱石たちは崩れ落ち、さらに大きな情報伝達物質として、この地面に再び横たわった。  そして飛び去った船と反対方向に移動を開始した。 Fin.
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