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騎士さまの縁を切るなんて厄介ごとに巻き込まれるのは確実だ。私はそういうリスクを冒したくはない。
「そこをなんとか……!」
「大体、運命だからって結ばれなくちゃならないというわけではないじゃない。断ればいいんじゃないの」
自分で言っておいて、わかっていた。彼は断れないから、縁を切りに来たのだと。
「そんなものできるものか!」
「じゃあ、他の聖女さまに見てもらうとか」
聖女の中には、金を掴まされて偽の証言をする者もいる。だから、他の聖女に見てもらうというのも一つの手だ。
「無理だ。……俺の運命を見たのは、聖女ロメーヌなんだ」
「……あぁ」
聖女ロメーヌ。
その名前は、このセドラン王国に暮らしていれば誰もが一度は耳にする名前だ。
今、この国で最も権威を持ち、最も能力が高いと言われている聖女。彼女に逆らうなど、並大抵の聖女では出来やしない。
「聖女ロメーヌが見たといえば、他の聖女は恐れをなして逃げ出す。……俺にはもう、縁を切るしか」
「……はいはい、とりあえず、わかったわ」
まずはこの騎士さまを落ち着かせなくては。その一心で、私は一度だけ咳ばらいをする。
「とにかく、まとめると。今後新しい聖女に縁を見てもらうことは絶望的。そのうえ、相手は諦めが悪い。もうこうなったら縁切りをするしかないと思った」
「……あぁ、そういうことだ」
彼はしょぼくれたように身を縮めて、頷いた。……捨てられた子犬みたいだと思ってしまった。
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