第八話

1/1
前へ
/15ページ
次へ

第八話

 久しぶりに紗夜に触れてから、彼女に対する気持ちが膨れ上がっていた。  成仏してしまったら、もう彼女と話すことも叶わなくなる。  だが、紗夜が彼女のままでいるためには、もう時間がない。悪霊になってしまったら、それこそ今の大好きな彼女と永遠に会えなくなってしまうだろう。  祐基は腹を括ることを決める。希美の元に紗夜を連れて行こう。  彼女の実家まで大体車で1時間ほどだ。それくらいの距離ならば、祐基にとって苦ではない。  「紗夜、今日はお前の実家に行こう」  「え……! で、でも、親がいるだろうし……」  彼女は親と折り合いが悪かったと生前聞いた事があった。だが、希美に会うのならば実家に行くしか方法がない。  「俺はもう腹括ったぞ。お前もいい加減覚悟決めろ」  「うぅ……。親父がいたらやだなぁ」  「大丈夫だ、お前の姿は俺にしか見えん」  「はっ、そうだった! なら、いっかぁ‼︎」  おいっ! と思わずツッコミそうになるが、祐基はグッと飲み込んだ。行く気になったなら問題は何もない。  二人は車に乗り込む。行く途中で祐基は手土産を購入した。  「そんなもん要らないのに」  「馬鹿タレ、初めて行く家に何も持って行かないやつがいるか‼︎」  「マジでいいのにー」とか文句を言っている紗夜を無視し、祐基はナビ通りに車を走らせる。  しばらく行くとのどかな田舎町に辿り着いた。紗夜は、こんなのどかな所で育ったんだなとしみじみ思う。  「あ、祐基。そこの家だよ」  彼女に指さされた家は、他の家より少し大きめな庭の広い家だった。  「車、どこに停めたらいいんだ?」  「近くにコンビニあるから、ちょっとだけ停めさせてもらおうや」  紗夜の言葉に頷き、祐基はコンビニに車を停める。  少し歩き、家の前に辿り着く。すると急に緊張で手が震え始めた。  「怖い?」  「ちょっとな……。でも、俺は希美に会いたいし、紗夜をちゃんと成仏させたいと思ってるから、が、頑張る……!」  祐基は大きく深呼吸し、震える手でインターホンを押した。  「はーい」  少し、紗夜の声に似た声が返ってきた。ドアが開くと彼女と似た顔付きの女性が出てくる。  「えっと、どなたでしょうか?」  不思議そうに尋ねる女性に祐基はあわあわしながら答える。  「あ、あの、初めまして。俺、紗夜さんの友達の祐基って言います! その、紗夜さんが亡くなったと聞いて……」  そこまで言うと、女性ーー彼女の母親はニッコリと笑い  「あなたがあの祐基君ね……。娘に話は聞いていたわ」  そう言われて「何を話していたんだ……‼︎」と心の中で戦慄する。チラッと紗夜を見るとわざとらしく口笛を吹く真似をしていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加