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第八話
久しぶりに紗夜に触れてから、彼女に対する気持ちが膨れ上がっていた。
成仏してしまったら、もう彼女と話すことも叶わなくなる。
だが、紗夜が彼女のままでいるためには、もう時間がない。悪霊になってしまったら、それこそ今の大好きな彼女と永遠に会えなくなってしまうだろう。
祐基は腹を括ることを決める。希美の元に紗夜を連れて行こう。
彼女の実家まで大体車で1時間ほどだ。それくらいの距離ならば、祐基にとって苦ではない。
「紗夜、今日はお前の実家に行こう」
「え……! で、でも、親がいるだろうし……」
彼女は親と折り合いが悪かったと生前聞いた事があった。だが、希美に会うのならば実家に行くしか方法がない。
「俺はもう腹括ったぞ。お前もいい加減覚悟決めろ」
「うぅ……。親父がいたらやだなぁ」
「大丈夫だ、お前の姿は俺にしか見えん」
「はっ、そうだった! なら、いっかぁ‼︎」
おいっ! と思わずツッコミそうになるが、祐基はグッと飲み込んだ。行く気になったなら問題は何もない。
二人は車に乗り込む。行く途中で祐基は手土産を購入した。
「そんなもん要らないのに」
「馬鹿タレ、初めて行く家に何も持って行かないやつがいるか‼︎」
「マジでいいのにー」とか文句を言っている紗夜を無視し、祐基はナビ通りに車を走らせる。
しばらく行くとのどかな田舎町に辿り着いた。紗夜は、こんなのどかな所で育ったんだなとしみじみ思う。
「あ、祐基。そこの家だよ」
彼女に指さされた家は、他の家より少し大きめな庭の広い家だった。
「車、どこに停めたらいいんだ?」
「近くにコンビニあるから、ちょっとだけ停めさせてもらおうや」
紗夜の言葉に頷き、祐基はコンビニに車を停める。
少し歩き、家の前に辿り着く。すると急に緊張で手が震え始めた。
「怖い?」
「ちょっとな……。でも、俺は希美に会いたいし、紗夜をちゃんと成仏させたいと思ってるから、が、頑張る……!」
祐基は大きく深呼吸し、震える手でインターホンを押した。
「はーい」
少し、紗夜の声に似た声が返ってきた。ドアが開くと彼女と似た顔付きの女性が出てくる。
「えっと、どなたでしょうか?」
不思議そうに尋ねる女性に祐基はあわあわしながら答える。
「あ、あの、初めまして。俺、紗夜さんの友達の祐基って言います! その、紗夜さんが亡くなったと聞いて……」
そこまで言うと、女性ーー彼女の母親はニッコリと笑い
「あなたがあの祐基君ね……。娘に話は聞いていたわ」
そう言われて「何を話していたんだ……‼︎」と心の中で戦慄する。チラッと紗夜を見るとわざとらしく口笛を吹く真似をしていた。
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