第六話

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第六話

 しばらくは、祐基は紗夜を急かすことなどはしていなかった。 しかし、中々残っている未練を話さないでいる紗夜に痺れを切らし始めていた。  ふとした瞬間に、紗夜はどこか遠くを見つめたままブツブツ呟く。 そんな瞬間の時間が少しづつ増えてきている。 そんな紗夜を見るたびに、祐基はとてつもない焦燥感を覚えた。 このままではいけない、と本能的に感じていた。  しかも、そんな状態になっていたのに、紗夜は何事も無かったかのように戻るのだ。 その時間の自分を覚えていないのだ。 祐基は、ただただ恐ろしかった。 このままなぁなぁで済ませてしまったら、己を許せない結末を迎えてしまうことが。 もう、待っている時間は無い。 そう思い、祐基は待つことを辞めることを決める。  「おい、いい加減最後の未練教えろ」  「どうしたん、急にぃ」  へらッとした笑みでそう答える紗夜。 ついさっきまで、別人のようにブツブツと呟いていたというのに……。 祐基は、もう一度「最後の未練、教えろ」と告げた。 紗夜は、困ったように眉を下げるだけ。 答えたくないという気持ちは伝わってくるが、このままでは終わらせない。 いつもみたいに譲歩なんかしてやらない。  「そんな焦らんでも、大丈夫っしょ? マジで、どうしたん、祐基?」  「もう、時間がないから聞いてんだよ……!」  祐基は半分叫ぶようにそう答える。 その必死さに、紗夜は酷く狼狽えた。 紗夜的には、悪霊になるような前兆を感じていなかったからだ。 しかし、祐基の様子からしてそれは間違っているのだろうと感じた。  「……もしかして、私、どっか可笑しくなってんの?」  震える声で尋ねる。祐基は目を伏せながら、小さく頷いた。  「そっか……。自覚出来ない感じのやつなんだ……」  がっくりと紗夜は項垂れた。 もう、観念しないとダメなんだ。 そう思い、ちゃんと伝えようと口を開く。 が、恐怖と不安で声が出てこない。 本当に伝えなければいけないのか、と覚悟が決まらない。  ずっと口をはくはくと動かしながらも答えない彼女に、祐基はしっかりと目を見て、こう伝えた。  「どんなことでも受け入れる。だから、お前も覚悟を決めろ」  祐基にそう言われ、紗夜は深く深呼吸をする。 そして、やっと覚悟を決めることが出来た。 伝えよう。 もう、伝えるしか道は残されていないのだから……。  「あの、ね……」  「おう」  「私、子供がいるんだ……」  「……へ?」
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