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第七話
休みが来るまでは、通常通り仕事がある。祐基は、我武者羅に仕事に励んだ。
朝から紗夜に起こしてもらい、仕事に行き、帰れば彼女が「おかえり」と迎えてくれる。この幸せな時間を噛みしめた。
全然出来なかった自炊も、祐基はするように頑張り始めた。
紗夜に炊飯器の使い方を教えてもらったり、色んなレシピを聞き、メモに取る。
そして、実際に作って成功したり、失敗したりを繰り返しながら、下手なりに料理が作れるようになってきていた。
何もせず、何も知らなかった頃の祐基は、もういなかった。
仕事が終わり、家に帰った祐基。ふと、思いついた事を口からこぼした。
「幽霊ってさ、夢枕に立つとか言うじゃん?」
「せやねぇ」
「夢の中でなら、触れるんじゃね?」
祐基のその言葉に、紗夜は目からウロコが落ちたような気分になった。
試してみる価値はあるんじゃないか……? 紗夜はガバッと立ち上がり、
「今日試してみる!」
と拳を突き上げた。
思い立ったら吉日がモットーな紗夜は、早速祐基に布団へ入れと促す。
すぐ寝むれるか分からないというのに……。
祐基は、「マジで強引だな」と思いつつも、紗夜に触れられるならと瞳を閉じた。
なんだかんだ仕事で疲れていた体は、素直に眠りを受け入れ、そのまま夢の世界へと落ちていった。
フッと目を開くと、そこは真っ白い世界だった。
祐基は「あぁ、夢なのかな?」と考えながら、辺りを見渡す。
すると、後ろから誰かに抱きしめられる感覚を感じ、慌てて振り返った。
そこには思った通りの人物。
そう、紗夜だ。
「触れた! やっと、祐基に、触れた……!」
感極まって涙声でそう話す紗夜に、祐基は愛おしさが増した。
そして、祐基の方も紗夜をぎゅっと抱きしめ返した。
「こんな風に抱きしめるのって初めてだな……」
紗夜の肩に顔をうずめながら、愛おし気にそう言う祐基。
そんな彼に紗夜はピタリと動きを止める。
祐基が何事かと思い、紗夜を見ると、そこには顔を真っ赤に染め上げた彼女の姿。
それを見た祐基は、「なんで生きている時にしてやれなかったんだろう」と悔やんだ。
まぁ、十中八九生きている時に見たら色々我慢は出来ていないだろうが……。
久しぶりに触れられる状況で、しかも、紗夜のそんな反応。
祐基は、己の中で顔を出した欲情をグッと抑え込んだ。
好きな人の可愛らしい表情は、こんなにも破壊力があることを学んだ日になった。
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