第一話

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 「祐基。会いたかったよ」  彼女のそんな言葉に、祐基は、ハッとする。 紗夜の表情は少し寂しさを含んでいた。 そんな彼女に心がざわつく。 そして、思い出す。 彼女のくれていた最後の連絡、「昨日の事は忘れて、またいつも通り過ごそう?」という言葉。 それは彼女にとって最善の策だった。 祐基にとっても逃げ道を作ってくれていたのに……。  何とも言えない罪悪感に祐基の表情は暗くなる。 そんな祐基に気付いた紗夜は「もう、そんな顔すんなよ! 終わったことじゃん?」と笑い飛ばした。  「でも……、俺、あの日の事すっげぇ後悔して……」  「別にさ、気にすることでもないんやないのぉ?」  「いや、気にすんだろ、普通」  「祐基はお堅いなぁ~」なんて言いながら紗夜は、ふわふわと部屋の中を回った。 生きた人間と違い、少し宙に浮いている彼女の動き回る姿は、どことなく妖精を思い浮かばせた。 やっぱり、幽霊は足がないんだな、なんて、場違いなことを考える。 一通り部屋の中を見て回ったのか、ふわふわ浮かびながら戻ってきた紗夜。  「ねぇ、エロ本とか置いてないんかい!」  突然の発言に、思わずずっこけそうになるも、『あぁ、紗夜ってこんな奴だったわ……』とフッと笑みが零れる。  「馬鹿め、今時エロ本なんか家に置かねぇよ! ネットで済ませるわ!」  「はっ……! 確かに!」  懐かしいやり取りに、なんだかあの頃に戻った気分になる。 じんわりと心が温かくなる楽しい時間。 失っていたあの時間。 心地のよさに、無性に泣きたくなった。  紗夜が馬鹿なことを言って、己がツッコミを入れて、そんな何気ないやり取りが好きだった。  しばらくそんなやり取りをして、祐基は、「そういえば……」と紗夜に話しかけた。 「お前、なんで俺に会いに来たんだよ? さっさと成仏してクレメンス」 「うん? いやぁ、祐基ともっかい遊びたくてさぁ! それが心残りなんだよねぇ」  「そんな事を心残りにするな、安らかに眠れ」 「うっせ、ばーか、ばーか!」と言いながら、紗夜はベーッと舌を出す。 本当にわからん奴だなと、祐基は苦笑いを浮かべた。 正直、己が心残りになるほど、大事に思っていてくれたことが嬉しい。 祐基は、どこまでも己は現金な奴だなと思った。 「んで? 成仏するにはなにしたらええのよ?」 「そうやねぇ~……。前に行こうって話しつつ行けてないとこ行こうぜ!」 「おう、しゃーねぇから連れてったるわ」 「あとは~……」 「まだあんのかよ!?」  祐基は、紗夜が心残りを解消するためにしたいことをメモをし、とりあえず、もう夜も遅いということで寝ることに決めた。  「てか、幽霊って寝るの?」  「さぁ? 寝ないんじゃね? 寝顔見てようか?」  「やだ、えっち……」  馬鹿な会話をしつつ、最終的に紗夜が外を見て回るということで落ち着いた。 スーッと壁をすり抜けていく彼女に、『幽霊って便利やな』と寝ぼけた思考回路で思う。 急にいろんなことが起こりすぎて、若干キャパオーバーだが、嫌な気持ちは湧いてこなかった。  明日からの日常が少し、ほんの少し、楽しみになったのはここだけの話。
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