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第二話
「よ、祐基! おはよーさん!」
目を覚まし、真っ先に見えたのは紗夜のドアップだった。
「ひょえ……」なんて情けない声を上げる。
彼女はケラケラと笑いながら、「思ったよりもぐっすり寝てたねぇ」なんて暢気なことを言った。
そりゃ、自分でも、こんな衝撃的な事が起こったのだから、眠れないんじゃないかと思っていた。そんなことなかった。熟睡した。
祐基に対し、ニヤニヤと笑みを浮かべている紗夜を無視し、彼は洗面所へと足を向かわせる。
蛇口をひねり、ほんのり冷たい水で顔を洗う。
後ろには紗夜がついてきているが、鏡には、彼女の姿は無かった。
「へー……。幽霊ってマジで鏡に映んないんだな」
「え? ……ほんまや!」
『いや、気づいてないんかい!』と心の中でツッコむ。
そんなところも紗夜らしいが、こんなに暢気でいいのかと心配にもなる。
少しはしゃぐ彼女を放置し、今日の予定を頭の中で思い浮かべる。
幸い今日は休みだ。紗夜には悪いが、早く成仏はしてもらいたいので、彼女が行きたがっていた店に行こうと考える。
昔、何かで聞いた話だったが、死んだ者がいつまでもこの世に縛り付けられていると、どんなにいい霊だったとしても悪霊になってしまうらしい。
祐基は、紗夜を悪霊にはしたくなかった。
彼女が彼女らしく、この世を去ってほしかった。
そのためには、早く成仏させるしかないのだ。
紗夜がこの世からいなくなると思うと、ほんの少し、そう、少しだけ心が痛みに声を上げた。
しかし、これは己の我が儘にすぎない感情だ。よくない感情だ。
だから、祐基は、この感情に気付かないフリをした。
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