3人が本棚に入れています
本棚に追加
「わかった、まだ行かないから……」
紗夜の言葉に安心したのか、祐基は眉をハの字にして笑った。
そんな可愛い表情も好きだったなと、紗夜の胸がきゅっと痛んだ。
祐基から何かを言い出すわけでもなく、しばらく無言の時間が流れる。
気まずいような、むずがゆいような感情に戸惑いながら、紗夜は祐基を見つめる。
「……俺、ずっと後悔してたんだよ。あの日が無ければ今も変わらず紗夜と居られたんじゃないかって」
祐基の言葉を紗夜は黙って聞く。
「でもさ、俺、ずっと紗夜の事男女関係ない友達として見てたんだけどさ……。今思うと違ったんじゃないかって……」
「どういうこと……?」
紗夜は思わず、聞いてしまう。
それは、ずっと彼女が欲しかった言葉かもしれないという期待もあった。
「なんだかんだ、俺は……、紗夜の事、女の子として見てたんじゃないかって思ったんだ」
欲しかった言葉、でも、今更という気持ちで、紗夜は複雑な気分になる。
その言葉はもっと早く欲しかった。
もう、今貰っても、紗夜は祐基に返すことが出来ない。
それが彼女にとって、とても辛いものだった。
「祐基。私はずっとあんたの事をただの友達だなんて思ったことなかったよ」
その言葉を放つと、祐基は目を瞬かせた。
「マジ……?」と素っ頓狂な声も漏らす。
紗夜は『やっぱりな』と思いながら、苦笑いをした。
もう隠し通すのは無理だ。
そう判断した彼女は、彼に置き土産を渡すことにした。
「あの日、ああなったのは私のせいだよ。私はずっと祐基が好きだったから。恨んでくれていい。罵倒されてもいい。でも、私は一度だけでもいいから、あんたに女として意識されたかったの」
祐基の驚いている顔を見ながら、紗夜は笑みを作る。
「でも、会えなくなるんだったら、あんなことしなければよかった……」
絞り出すようにそう伝え、紗夜は俯く。
祐基は、なんて言うだろうか……。
それだけが不安だった。
再び無言の時間が訪れ、そっと顔を上げると、そこには愛おし気にこっちを見る祐基の顔があった。
なんで、そんな顔するんだろうと紗夜は悩む。祐基の瞳は段々と潤んでいった。
「もっと早く、気付いてやれれば、何か変わってたのかな……!ごめんな……、あんなことさせて、本当にごめん……!」
あぁ、どこまで優しい男なんだろうか……。
紗夜はそう思った。
そんな事言ったら、怖気づいて伝えなかった私も悪いじゃないか……。
結局逃げていたのは自分だと、紗夜は心の中で呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!