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第四話
「紗夜はこれからどうしたいんだ?」
不意に祐基からそう尋ねられる。
紗夜は少し考える素振りをして、困ったように笑う。
自分の気持ちを打ち明けてしまったが、彼に隠しているもう1つの未練を言うべきかと悩んでいたのだ。
これを打ち明けてしまったら、きっと祐基にとって後悔が深まってしまうだろう。
そう思うと紗夜には、その未練を彼に伝えられなかった。否、伝えたくなかった。
「とりあえず、成仏出来るまではフラフラ〜って1人で彷徨っておくよ」
紗夜のそんな言葉に、祐基は眉間に皺を寄せる。
ここまでお互い心の中をぶちまけたと言うのにまだ隠すのかと。
「幽霊ってのは、現世に留まることで悪霊になっちまうらしいぞ。お前はそれでいいのかよ?」
祐基は、不満げにそう伝える。
その言葉に紗夜は目を瞬かせ、クスッと笑った。
どこまで行っても己の心配をしてしまう彼がとてつもなく愛おしかった。
愛おしいからこそ、彼にとって負担になることはしたくない。
そう思ってしまう。
そんな紗夜の気持ちを知ってか知らずか、祐基は畳み掛ける。
「もう、これ以上、お前の事で後悔したくないんだよ……。なぁ、頼む……」
今だに泣きそうな顔でそう訴える祐基に、紗夜はグッと胸が締め付けられた。
無理をさせたくないという気持ち、このまま縋ってしまいたい気持ち……。
その真反対の気持ちに心が揺れる。
紗夜は小さく息を吐き、一旦考えるのを辞めた。
まだ伝えなくても良いだろうと思うことにしたのだ。
「とりあえず、まだ悪霊になるほど時間が経ち始めてる訳じゃないと思うんだよねぇ……。だから、一旦考えさせてよ」
祐基としては、納得のいく答えではなかったが、紗夜がまだ迷っているのなら仕方ないと思うことにした。
「わかったよ。でも、必ず教えろよな?」
念を押して言う祐基に、紗夜は苦笑いを浮かべた。
だいぶ夜が深まってきていた時間。
次の日は仕事だと言う祐基に、紗夜は「さっさと寝ろ!」と言い放つ。
文句を言いながらも、時間は止まってくれないので仕方ないと祐基は眠りについた。
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