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「よう、木暮。お前、確か『前に小鳥を飼っていた』って言っていたよな?」
同僚の田山が声をかけてきたのは、署内の廊下ですれ違った時だった。
「うん。だけど『前に』っていうのは、かなり昔の話だよ。実家で暮らしてた頃だからね」
軽い口調で返しながら、僕は大袈裟に視線の向きを変える。
まるで「今、気づいた」と言わんばかりに目を丸くしてみせるが、本当は彼の姿が視界に入った時点で、田山が手にしているものを理解していた。
「おや、それは……。田山も小鳥を飼い始めるのかい? それで僕のアドバイスが欲しい……とか?」
「そんなわけないだろ。わざわざ職場にペットなんて連れてこないさ。だけど……」
一瞬だけ口元に苦笑いを浮かべるが、田山はすぐに真剣な表情に戻る。
「……まあ『アドバイスが欲しい』というのは当たっているかな。いやペットを飼うとかじゃなくて、もちろん捜査の話さ」
そう言いながら彼は、右手にぶら下げた鳥籠を僕の方へと突き出してみせる。
鳥籠の中に入っているのは、頭が黄色で体が緑色の小鳥。体長20センチくらいのインコだった。
田山は僕と同期で、勤務している警察署も同じだが、僕が地域課で交番勤務なのに対して、彼は刑事課で捜査一係の刑事だ。
その点について考えると、僕の心の中には少し、ざわざわと穏やかでない気持ちも生まれてくるほどだった。
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