タダイマ、マイコ。オカエリ、コーチャン。

4/5
前へ
/5ページ
次へ
    「おお、凄いぞ! さすがは木暮、まるで小鳥マスターだな!」  興奮する田山を落ち着かせる意味で、僕は努めて冷静な態度を示す。 「ええっと、確か被害者は、女性専用マンションで一人暮らしだったんだよね? だったら彼女一人で『タダイマ』と『オカエリ』を言うのは、ちょっと変じゃないかな?」 「そう、だからこそ大きな意味がある! なにしろ……」  田山は落ち着くどころか、むしろさらに(たかぶ)っているような口調だった。 「……被害者の名前が『麻衣子(まいこ)』だからな。つまり『タダイマ、マイコ』の部分は彼女のセリフじゃなくて、彼女が口にしていたのは『オカエリ、コーチャン』の方だけ。例えばコウジとかコウスケとか、とにかく『コーチャン』と呼ばれる男がいて、そいつが『タダイマ、マイコ』と言っていたってことさ!」  被害者は一人暮らしで、しかも女性専用マンションだったのだから、その『コーチャン』なる人物は一緒に住んでいたわけではないのだろう。  しかし被害者の部屋で『タダイマ』という言葉を、それもインコが覚えてしまうほど頻繁に言っていたのだから、それこそ半同棲と呼べるくらいに足繁く(かよ)っていたに違いない。  田山は、そのように推理しているようだった。 「この『コーチャン』って男が一番の容疑者、いや少なくとも重要参考人だな。お手柄だぜ、そんな男の存在をインコから引き出せたのは!」    
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加