きみとわたしの特別

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どきどき、どきどき、とどんどん速くなっていく心臓の音を認識することで精一杯。感じる大きな気配も、ほのかに香る柔軟剤の匂いも、全部、大好きなひとのもの。 彼がわたしを名前で呼ぶのも、小中からの"名残"でしかないけどそれでも誰に呼ばれるより幸せな気持ちになるんだ。 またわたしは答え合わせできてしまう特別に縋りたくなる。だって高校じゃわたしだけの特権なんだ。 「……(れん)くん」 わたしのペンを奪った、大好きなひとの名前を呼ぶ。わたしの前の席に座って、向かい合う形になったきみは柔らかくふわりと笑う。 長いまつげが差し込む太陽で影ができる。そんな影が見えるくらい、きみが近い。いつも遠くから見てるだけのきみが、目の前に座っている。ペンを器用にくるくる回しながら、わたしと目が合い続けてる。 今だけは、わたしが映ってるのかな。映っているとしたらわたしの顔が熱くなっているのもバレているかもしれない。 何の用だろう。今日、部活はお休みなのかな。大会とかないのかな。……改めて、わたしって蓮くんのこと何も知らないんだなって実感する。 "小中高と同じ学校に通うだけのクラスメイトAちゃん"、我ながらこれ以上の表現ってない。何の用って、そうだなあ。放課後の教室でふたり、蓮くんとわたし。考えられることといえば、本格的に果音かのんのこと相談されるとかかな。 蓮くんが自然と目で追っている、わたしの親友。それくらいしか今は共通項が見つからないんだ。特別とは程遠い。ひとり勝手に落ち込む。
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