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放課後の美術室で、結衣は翔と向かい合っていた。
「呼び出してごめん」
「いえ」
「……あのさ、さっきの小野寺さんのノートに描かれてたのって……」
「ごめんなさい!!」
結衣は翔の言葉に被せるようにして頭を下げた。
「許可も取らずに勝手に描いて……知り合いでもないのに、気持ち悪いよね。ホントにごめんなさい」
「いや、責めてるんじゃなくて! ……ただ、なんで俺を描いてたのかなって……!」
「えっ……と…………」
翔は、結衣が勝手に自分の絵を描いていたことに引いているわけでも、怒っているわけでもないようだった。
ただ、何と答えていいのかわからなくて、言葉に詰まる。
翔は、俺の勘違いだったら恥ずかしいんだけど……、と前置いて話し始める。
「……小野寺さんって、……俺のこと好きだったりする?」
結衣は、自分の顔に血が集まっていくのを感じた。赤くなっていることを自覚しながら、コクンと頷く。
「……実は俺も、前から小野寺さんのこと気になってた。」
「……えっ」
「もしよかったら、これからは話しかけるようにしてもいいかな?」
「……うん」
結衣は戸惑いながら頷いた。
「じゃあ、とりあえず友達になったってことで。よろしく。」
翔が差し出してきた手に、結衣も自分の手を合わせる。
結衣は握手して繋がった手と、近くにある翔の笑顔を見て、信じられないような気持ちになった。
思いがけず翔の手に渡ってしまった結衣のノートは、2人を繋いだ運命の1冊だ。
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