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翔が結衣のことを知ったのは、文化祭での美術部の展示がきっかけだった。
たくさんの作品が展示されているなかで、一目見て引き込まれた作品がひとつあって、それが結衣の作品だったのだ。
それは、学校近くを描いた風景画で、そこに描かれている景色が、自分が普段見ているよりも美しいものであるように翔は感じた。
そして、その絵を描いた人には、世界がこんなにも綺麗に映っているのかと思い、誰が描いたのか気になってパネルを見た。
ーー2年 小野寺結衣
同じ学年だったが、翔の知らない人物だった。
「玲央、この小野寺さんって人、知ってる?」
「いや、知らねぇな」
翔は、一緒にいた玲央に尋ねた。男女ともに交友関係が広い玲央ならば、彼女のことを知っているかもしれないと思ったのだ。だが、玲央にもわからないようだった。
後日、友人たちに聞いてくれた玲央からの情報によって、翔は結衣のクラスを知った。そして、放課後はほとんど毎日、美術室で絵を描いているということも。
それから、翔は部活のときに美術室の方を見上げるようになった。
どの人が結衣なのかは、すぐにわかった。美術部には幽霊部員が多いのか、毎日のように来ているのは1人だけだったからだ。
いつしか翔は、真剣に絵に向き合っている結衣に好感を抱き、窓から見える彼女の姿に元気をもらうようになっていた。
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