天沢翔

2/3
前へ
/13ページ
次へ
 翔が結衣のことを知ったのは、文化祭での美術部の展示がきっかけだった。  たくさんの作品が展示されているなかで、一目見て引き込まれた作品がひとつあって、それが結衣の作品だったのだ。  それは、学校近くを描いた風景画で、そこに描かれている景色が、自分が普段見ているよりも美しいものであるように翔は感じた。  そして、その絵を描いた人には、世界がこんなにも綺麗に映っているのかと思い、誰が描いたのか気になってパネルを見た。  ーー2年 小野寺結衣  同じ学年だったが、翔の知らない人物だった。 「玲央、この小野寺さんって人、知ってる?」 「いや、知らねぇな」  翔は、一緒にいた玲央に尋ねた。男女ともに交友関係が広い玲央ならば、彼女のことを知っているかもしれないと思ったのだ。だが、玲央にもわからないようだった。  後日、友人たちに聞いてくれた玲央からの情報によって、翔は結衣のクラスを知った。そして、放課後はほとんど毎日、美術室で絵を描いているということも。  それから、翔は部活のときに美術室の方を見上げるようになった。  どの人が結衣なのかは、すぐにわかった。美術部には幽霊部員が多いのか、毎日のように来ているのは1人だけだったからだ。  いつしか翔は、真剣に絵に向き合っている結衣に好感を抱き、窓から見える彼女の姿に元気をもらうようになっていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加