小野寺結衣

5/9
前へ
/13ページ
次へ
 あのノートの中には、いくつもの人物画ーーそれも、姿ばかりが描かれているのだ。  結衣は美術部に所属している。  最初に翔を描こうと思ったのは、サッカーをしている翔の姿を絵にしたら映えそうだと思ったのと、翔へのほんの少しの憧れからだった。    美術部の活動場所は美術室なのだが、幽霊部員がかなりいる上に、そうではない部員も展示会前だけ通いつめ、普段はたまに顔を出す程度といったタイプが多い。  落ち着いて絵が描けるその空間を気に入っている結衣は、放課後は毎日のように美術室で過ごしていた。 「……ふぅ。」  油絵の下書きを終えた結衣は、窓の外に目を向けた。2階にある美術室の窓からは、グラウンドを見下ろすことができる。野球部や陸上部なども活動しているが、美術室から近い場所で活動しているサッカー部が1番よく見える。  なかでも、翔の姿はよく目に入った。翔にはどこか人の目を惹きつけるオーラのようなものがあって、コートのどこにいてもすぐにわかるのだ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加