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あのノートの中には、いくつもの人物画ーーそれも、天沢翔の姿ばかりが描かれているのだ。
結衣は美術部に所属している。
最初に翔を描こうと思ったのは、サッカーをしている翔の姿を絵にしたら映えそうだと思ったのと、翔へのほんの少しの憧れからだった。
美術部の活動場所は美術室なのだが、幽霊部員がかなりいる上に、そうではない部員も展示会前だけ通いつめ、普段はたまに顔を出す程度といったタイプが多い。
落ち着いて絵が描けるその空間を気に入っている結衣は、放課後は毎日のように美術室で過ごしていた。
「……ふぅ。」
油絵の下書きを終えた結衣は、窓の外に目を向けた。2階にある美術室の窓からは、グラウンドを見下ろすことができる。野球部や陸上部なども活動しているが、美術室から近い場所で活動しているサッカー部が1番よく見える。
なかでも、翔の姿はよく目に入った。翔にはどこか人の目を惹きつけるオーラのようなものがあって、コートのどこにいてもすぐにわかるのだ。
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