154人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
「いやぁ、まゆちゃんもすっかり大きくなっちゃって、おにいさんびっくりしたなぁ」
「そう、ですか…」
夕焼けに染まる公園のベンチに腰掛け、昔を懐かしむ話に相槌を打つ。怪しいと思っていた人物は、私がまだ小さい頃によくこの公園で遊んでくれたおにいさんだった。
「私は、不審者だと思いましたよ…」
「フシン…シャ? 何それ〜」
とぼけているのか、妙なイントネーションで繰り返した「不審者」と言うワードは、おにいさんを表すのにこれ以上ないくらい適した言葉だと思う。
こんな平日の夕方に誰もいない公園で何をしていたのか、見る人が見れば十分不審者の条件を満たしている。
そんなおにいさんはベンチに腰掛ける私にぴったりくっついて座り、距離の近さから横に移動すると一緒についてくる。手で直接触れてくることはないが、少しでも離れようものなら逃がさないとでも言うように詰めてくるのだ。
「おにいさん…近いです」
「そりゃあね〜近付いているからねぇ」
にやにやと、顔を覗き込みながら楽しそうに話す姿は覚えがある。昔、砂場や滑り台で遊ぶ私をおにいさんはいつも楽しそうに見守っていた。
だけどあの頃と確実に違うのは私が成長したということだ。周りが恋人を作り、デートだの初体験だのと騒ぐ年齢になった今、異性と密着することはそうそう無い。
「そんなにくっついたら、は、恥ずかしいんですけど…」
最初のコメントを投稿しよう!