5. ただいまに、きっとまた泣く

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5. ただいまに、きっとまた泣く

 それから半年が経ち、私の入学式よりひと足先に、父さんが再入社する日になった。 「父さん、会社で間壁さんに会ったら『ただいま』って言ってみたら?」 「間壁に?」 「うん。エレベーター降りた時に言えなかった分もこめて」 「あの時も、間壁に言うつもりはなかったけどな」 「いいじゃん。今度は間壁さん泣くかもよ」 「……それはいい」  存分に笑い合って、「いってきます」と「いってらっしゃい」で見送った。  リビングに飾ってある写真を手に持ってソファーに腰かける。  私の勉強机に置いてあるのと、父さんのパスケースに入っているのと同じ家族写真だ。  ただし、これが一番大きく引き伸ばしたものだから、母さんの顔をよく見たい時はこれを選ぶんだ。   「よく考えたら、泣いちゃうのは父さんの方かなあ。母さんどう思う?」  きっと春風みたいにあたたかく迎えられるんだろう。  そしたら、桜の花びらよろしく涙を流す父さんの姿が簡単に思い描ける。    すると写真にうつるにこやかな母さんの笑顔が、イタズラっぽいものに見えてきてしまう。  この予想は正しいなと確信できて、私は思わず吹き出してしまった。
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