0人が本棚に入れています
本棚に追加
2. 宇宙エレベーターの出発
「さすが、この時期でも赤道は暑いなあ! ゾンビも半袖だもんなぁ!」
はいはいそうですか、と返事するのもわずらわしい。
旅先で大人げなくはしゃぐ父さんに、私はゲンナリだよ。
私たちは、宇宙エレベーターが建設されているアースポートに来ていた。
太平洋に浮かぶ人工島は赤道直下にあるため、ハロウィンを控えた10月でも、歩くだけで汗ばむ。
「ハワイを思い出すな。母さんと新婚旅行で来たんだ」
「それもう五回くらい聞いた」
昨日到着してから五回だから相当な頻度じゃない?
浮かれすぎだよ。
「なら、父さんがエレベーター開発にちょっと関わってたことは?」
「知ってるよ!」
それこそ物心ついたころから何度も聞いている。
島の中央にドンとそびえ立つ巨大なエレベーター。
地上に接している部分だけ見ればターミナル駅みたいな雰囲気なのに、列車の行き先は縦方向に伸びているから頭がバグる。
行き先は本当に雲の向こうまで続いていて、終わりが見えない。
これが大気圏のはるか向こうまでのびているんだって。すごすぎる。
エレベーターを見据えたままの私をチラ見し周囲に視線をさまよわせたあと、父さんは私にたずねた。
「鈴架、本当に乗らないのか? 父さんが造った部品が拝めるかもしれないぞ〜」
「見分けつかないでしょ」
「ふふん。一個だけ、退職前にサインしてきたやつがあるんだな」
「ええ? 何してんの」
このエレベータ事業に関わっているのは日本だけじゃない。
アメリカにヨーロッパ各国も参加している大規模な計画だって、学校の授業でも習った。
有名人ならまだしも、開発者のおじさん(しかも退職済み)が書いたサイン付きの部品なんて……採用するわけがない。
というか、そんなくだらないことしたから解雇させられたんじゃないの。
最初のコメントを投稿しよう!