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3. 待ち時間に、懐かしい人からのお願い
エレベーターの搭乗ロビー付近には、飲食店や土産屋などが併設されている。
日本でもよく見るチェーン店のカフェで、私は父さんを待つことに決めた。
広い店内は空席が多くて安心する。ちょっと長居しても許されそう。
窓際のカウンター席に座り参考書を開く。
全面ガラス張りの壁は視界いっぱいに水平線が広がっていて開放感がある。気分がいい。
少し視線を下げれば、多くの人でにぎわうビーチが見えた。
海の青に負けない鮮やかな色のパラソルが並び、沖の方では水上バイクが白い線を波間に描いていた。
みんな楽しそう。
意地なんて張らず、エレベーターに乗ればよかったかもと後悔が頭をよぎる。
今回の一般試乗を終えたら、予約してお金を払えば誰でも宇宙エレベーターに乗ることができるようになる。
でも、やっぱり値段は高い。世界一周の旅に行けそうだなあって感じ。
時間が経てばうちの家計でも手が届くようになるかもしれないけれど、それがいつになるかは分からない。
エレベーターがのぼると同時に空の色が濃くなる様子を眺め、大気のない宇宙空間だからこそ観察できる、またたかない星々の輝きも目の当たりにする。
しかも低軌道ステーションは、地球上と変わらない重力がある。
不便は感じずに、宇宙の景色が見られるんだぞって、父さんが自慢げに話していたなぁ。
やっぱり、いいな。
――いやいや、父さんを除け者にした会社なんだから。
よしと両手で頬を叩く。
気合を入れた勢いのまま、シャーペンをノートにはしらせた。
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