0人が本棚に入れています
本棚に追加
「……お願いって、何?」
「うちの会社に戻るよう、お父さんを説得してくれるかい?」
「え?」
「何度も誘っているんだけれど、いい返事がもらえなくてね。鈴架ちゃんじゃないと説得できない気がするんだ。どうだろう?」
どういうこと?
「父さんは、会社を辞めさせられたんじゃ……」
「まさか。嫌味を言う上司はいたけど、そんなやつ、程度の差はあれどこにでもいるからね」
もう一口コーヒーを飲んで、間壁さんはふうと息を吐いた。
「お父さんは自分の判断で、君との時間を確保するために会社を辞めたんだよ」
私のため?
思いもしなかった可能性を突きつけられて、言葉につまる。
エレベーターをつくるのに一生懸命で、どれだけやりがいがあって夢のあることか、楽しそうに嬉しそうに話してくれたのに。
だったら、あんなに泣かせるほど辛い決断を、私がさせてしまったってこと?
聞きたいことはたくさん浮かぶ気がするのに、何からどう聞けばいいか整理がうまくいかない。
すると、まもなく宇宙エレベーターが到着するとアナウンスが伝えてくれる。
頭の中がまとまらないまま、間壁さんに促されて一緒に到着ロビーへ向かった。
*
ほどなくして、試乗に参加した人たちが出口から出てきた。誰も彼も笑顔で、興奮冷めやまない様子で感想を伝え合っている。
父さんの姿は、探すまでもなかった。
だって真っ赤な潤んだ目をして、私と間壁さんを見るなり手のひらで目をおおうと立ち止まり、肩をゆらし始めたから。
どうしたんだろうと慌てる私の横で、「泣いて喜んでくれるとは」と間壁さんは誇らしげだった。
最初のコメントを投稿しよう!