3. 待ち時間に、懐かしい人からのお願い

3/3
前へ
/10ページ
次へ
「……お願いって、何?」 「うちの会社に戻るよう、お父さんを説得してくれるかい?」 「え?」 「何度も誘っているんだけれど、いい返事がもらえなくてね。鈴架ちゃんじゃないと説得できない気がするんだ。どうだろう?」  どういうこと?   「父さんは、会社を辞めさせられたんじゃ……」 「まさか。嫌味を言う上司はいたけど、そんなやつ、程度の差はあれどこにでもいるからね」  もう一口コーヒーを飲んで、間壁さんはふうと息を吐いた。   「お父さんは自分の判断で、君との時間を確保するために会社を辞めたんだよ」  私のため?  思いもしなかった可能性を突きつけられて、言葉につまる。    エレベーターをつくるのに一生懸命で、どれだけやりがいがあって夢のあることか、楽しそうに嬉しそうに話してくれたのに。    だったら、あんなに泣かせるほど辛い決断を、私がさせてしまったってこと?  聞きたいことはたくさん浮かぶ気がするのに、何からどう聞けばいいか整理がうまくいかない。      すると、まもなく宇宙エレベーターが到着するとアナウンスが伝えてくれる。  頭の中がまとまらないまま、間壁さんに促されて一緒に到着ロビーへ向かった。  *    ほどなくして、試乗に参加した人たちが出口から出てきた。誰も彼も笑顔で、興奮冷めやまない様子で感想を伝え合っている。    父さんの姿は、探すまでもなかった。  だって真っ赤な潤んだ目をして、私と間壁さんを見るなり手のひらで目をおおうと立ち止まり、肩をゆらし始めたから。  どうしたんだろうと慌てる私の横で、「泣いて喜んでくれるとは」と間壁さんは誇らしげだった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加