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「私そんなに子どもじゃない。父さんは十八にならないと、一人前としてみてくれないわけ? だけどそれまでまだ三年あるよね。今は会社に戻ってきてって言われるけど、三年後はむしろお断りされるかもよ?」
私が機嫌を損ねたように見えたのか、父さんと間壁さんの背筋が同時にのびた。
いやいや。思春期を警戒しすぎだって。
そりゃあいつまでも子供扱いはウザいからやめてほしいけれど。
「すごいと思ったよ。私、父さんは辞めさせられたと思ってたから。間壁さんの話聞いて、求めれてる人なんだなぁって」
だからこそ、私が戻るきっかけを作れるなら、作りたい。
頭をフル回転させて、どうしたら説得できるか考える。
「中学の制服って、卒業したら着れないじゃん。私さ、高校の志望校がぜんぶブレザーだから、セーラー服は三月で着おさめなの。それ以降はコスプレじゃん?」
「高校生のうちなら、コスプレにはならないだろう」
「別にそこはどうでもよくて! 終わると戻れないことってたくさんあるでしょ。たとえば……命、とか」
「それは……」
「だから、一度終わりにしたことをもう一度始められるって、すごくない? しかもまだやりたい仕事とか。すごいじゃん!」
どんなことにも始まりと終わりがあって、それらは自分自身で決められることばかりじゃない。
うん、そうだそうだ。
自分で話しながら納得してしまう。
再挑戦のチャンスがあるっていうのはきっと、今まで私が考えていた以上に価値があって、尊いことなんだ。
それは再入社だったり……宇宙エレベーターに乗ることだったり。
「どうせならさ、私、父さんが造ったエレベーターに乗りたいなー……なんて」
なんだって初めてのものを造るのは難しいけれど、それを維持し続けるのはもっと難しいって話は、お酒に酔った父さんがよくする。
今後、宇宙エレベーターは今よりもっと高く伸びていく。ステーションだって増えるし、クライマーの規模だって変わるかもしれない。
何年か後には、今とは別物と言えるくらい性能が向上するかもしれない。
なにより、父さんが再入社してくれたら、私はなんの不満もなくエレベーターに乗って宇宙旅行を楽しめる。
いいことづくめだ。
「…………まいったな、降参だ」
「うわ鈴架ちゃんすごいな」
「単に娘かわいさで折れたんじゃないぞ。俺を諭せるくらい大人になっていたその成長具合に感動してだな……」
「嘘つけ。最後の『パパが造ったエレベーター乗りたいな♡』が決めてだろ。そんくらい子なしでも分かるわ」
その後、拗ねて黙った父さんと、おおげさなくらい私に感謝を告げる間壁さんの対比が面白くて、私はずっと笑ってばかりだった。
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