強請る

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 首を横に振って必死に否定するけれど、私にも、これは目の前のひとを自分のものにするまできっと収まりはしないのだろうと、根拠もない直感があった。  途方もない欲望の分水嶺の始点にいた。  布越しに先端を爪先でぐりぐり押され、鋭い刺激が全身を電流になって駆け巡る。雨の痕とは違う色の染みが、頂のほうからじわじわとスカートを侵食していく。痛みと快感に身を捩らせながら、やっとの思いで尋ねる。  「あ、あなたは……?」 「俺?」 「名前、とか」 「知りたい?」  幼い子どものようにこくこくと何度も頷く、けれど。彼は答えてはくれない。ただ、私の性器を玩具にして嬲るだけだ。  またすぐに絶頂が迫る。二度目の白濁を受け止めたのはスカートの柔かなポリエステル生地だった。手触りがよく、繊細な線で花模様が描かれたフレアスカートは最近のお気に入りだったのに、これじゃあもう着られないかもしれないと、息を乱しながら意識の遠いところで思った。  快楽に支配されてもやがかかったようにはっきりしない頭のなかで、艶っぽい彼の声だけが鮮明に響く。 「イくの早すぎだってば。いつもそうなの? それとも、縛られて雑に触られるのがすき?」 「こんな……こと、いつもは、しない……っ、」 「そう。でもほらまた、もう勃ってきてる。さすがに恥ずかしくないの?」 「っや、言わない、で」 「服べとべとに汚してるのに、まだ全然足りなさそうだね」  さっきまで性器を弄んでいた指先で、私の長い髪を撫でた。彼の甘い匂いに紛れて、生ぐさい精の匂いがする。私の匂いだ。  半袖のティーシャツから伸びた二の腕は細く締まっていて男性らしいのに、指は節も目立たず、すらりと綺麗で女性っぽい。私は自分から匂いを嗅ぐ犬のように、鼻先を彼の手に寄せた。動物が餌を強請るように、甘えるように。 「どうしたらいいですか……助けて……」  しゃくりあげながら、答えを待った。  むせるような甘い匂い。オメガのフェロモン。  今この場にいるオメガは彼ひとりで、アルファは私ひとりだから、このフェロモンはすなわち、私を誘う彼のものだ。  だったら、助けてほしい。果てのない欲望をもっともっと受け止めて。熱くうねる内部に、滾った私をぜんぶ埋めさせて。何度も何度も、泉が枯れきってしまうまで絞りとって。
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