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人類はそれぞれ、男・女の性と、アルファ・ベータ・オメガの性を有している。つまりヒトの性別は6種に分かれているということである。最近だと、もっと細かい区分が必要だなんて話もあるみたいだけれど、大昔から変わらない認識としては、6種類だ。
私は女で、アルファである。
アルファは人類史におけるその誕生以来——それは人間が文明を生み、階級制度を生み出した頃とされている——、支配階級で、強者で、虐げる側で、孕ませる側と言われてきた。
歴史上の英雄、為政者、偉大な人物は大抵がアルファだったと記録(あるいは推測)されているし、現代においても何かしら秀でた能力を持ち、社会の上部に位置しているひとたちはアルファが圧倒的に多いらしい。この世界は人口比で言えば全体の1割弱のアルファ層が支配しているということになる。
支配されるのはベータとオメガ。オメガは、ピラミッドで言えば最下層、弱者で、虐げられる側で、孕む側。ベータはオメガでもアルファでもない中間層、普通のひとびとだ。
だから物語に描かれるか弱いお姫様たちはきっとオメガだったし、王子様はアルファでしかあり得ない。お姫様がアルファだったら、虐げられる前にやり返しているし、自分の力で自分の幸せを実現しただろう。
それに、アルファ男とアルファ女は恋愛において絶望的に相性が悪いのだ。どちらも支配欲が強くて屈服するのが大嫌い、そんなふたりが結婚生活をつつがなく維持できるだろうか。否。だって私の父(典型的なアルファ男)と母(典型的なアルファ女)がそれを証明している。ふたりの結婚生活は私が5歳になった年に終わった。
王子様とお姫様が強く惹かれ合うのはオメガが発するフェロモンのせいだろうし、——もしかしたら、運命、だったのかもしれない。
運命。なんて心躍る響きだろう。
フルーツタルトのてっぺんからぷっくりと丸く輝くマスカットを転がしてフォークで刺した。莉子は白磁のティーカップの繊細な取っ手を指でなぞっている。
「私はベータだからよくわからんけど、アルファとオメガって運命の赤い糸が実在してるんでしょ?」
「赤い糸? ああ、運命の番ってやつ?」
「そうそれ、運命」
「どうなんだろ、周りでそんな話聞いたことないし、都市伝説みたいなものじゃないのかな、それこそ赤い糸みたいな」
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