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少し大ぶりな餃子をひとつ口に入れ、歯で衣を噛み破ると、口のなかいっぱいにじゅわりと肉汁とにんにくの濃厚な味わいが広がる。予想以上ににんにくがたっぷりタネに練り込まれているのがわかる。これは食後の口臭が困ったことになりそうだ、そしておいしいからさらに困る。箸がとまらない。
「おいしい?」
「はいっ、よければひとつどうですか?」
「いらない。俺この後用事あるから、にんにく臭いのはちょっと」
「そろそろ私怒ってもいいかな。そうだ、名前聞いてもいいですか」
「片岡涼平」
「あ、意外とあっさり教えてくれるんですね」
「奢ってもらってるからね」
「片岡さん……どこかで聞いたことあるような」
「ありがちな名前だから」
「何歳ですか?」
「23」
「ええ、ふたつ上だ、びっくり」
「幼く見えるって?」
「同い年か、もしかしたら年下かなって思ってました、ごめんなさい。社会人? ですか?」
「大学院生」
「どこの院?」
「M大。日比さんは大学生だよね」
「私はS大です」
「へえ。大学から? それとも内部進学?」
「内部進学」
「じゃあ金持ちのオジョウサマだ」
「そんなことはないですけど。片岡さんは、このへんに住んでるんですか?」
「いや」
「どうしてあそこにいたんですか?」
「先週テレビ見てたら、なんか知ってる顔が出てるなーって。だから今週、見に来た。あのあとどうなったのか、多少気になってもいたし」
その「気になる」が、自分の行いへの罪悪感や私への心配によるものではなく、ただの野次馬根性だというのは彼の表情でわかった。
それはさておき、先週といえば顔面どろどろで過去最悪の画面映りだったはずなのだ。実際、放映後、視聴していた莉子から「顔やばかった」とメッセージが飛んできたほどに。
「先週ですか……雨で顔ひどいことになってましたよね……」
「なんでこのひと外にいるんだろうなとは思った」
同じ大きさの皿に同じ数だけ並べられた餃子は、彼の皿のほうがはやいペースで減っていく。からだの線が細くて顔も中性的な印象だけれど、さすがは若い男性というか、私よりもひと口が大きく食べるのもはやい。
私が自分の皿のにんにく入り餃子を残り二つまで減らしたところで、彼は完食して箸を置いた。以降は、頬杖をついて私の様子を眺めている。
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