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「餃子以外で」
エレベーターが地上一階に降り立ち、私たちは凶暴な夏の太陽の下に出た。
オフィス街だから、ランチ営業している店も多種多様だ。目についた定食屋に入ると、同じく昼休憩中らしきビジネスマンで店内はひしめいている。大学の学食とは種類の違う熱気がこもっている。
「おともだち、って、なにすんの」
日替わり定食(今日は生姜焼き定食らしかった)を各々口に運びながら、ふと思い出したようにさゆが尋ねる。
「なんだろう。遊びに行くとか?」
私は首を捻った。自分で言い出しておきながら、あまり具体的に考えたことはなかったのだ。
あのオメガの青年とお近づきになりたい、という当初の願いは偶然にもインターンにより達成されたから。お天気キャスターの件しかり、いつも勝手に私の道を決めてしまう母に対して感謝したくなったのは人生ではじめてかもしれない。
「ふたりで? デートじゃん」
「デート……」
「その顔やめて」
「顔?」
「エロジジイみたいな顔」
「ひどい」
「デートしたいの?」
「したいかしたくないかと言われれば、ものすごくしたいです」
「俺は別にしたくない」
「だよね」
答えを聞くまでもなく知ってた。でも私はめげるわけにはいかない。
インターン、つまり夏休み中の二か月間になんとしてもさゆともっと仲良くなり、その後につなげなければならないのだ。
目下、インターンとしての仕事よりもその先に待つ就活よりも、私にとっての最重要事項である。豚の生姜焼きを摘んだ箸を一度置いて居住まいを正した。
「さゆ。私とデートしてください」
「なんで?」
「なんでって……したいから」
「したい理由は?」
「さゆともっと仲良くなりたいから」
「なんで仲良くなりたいの?」
「それは……し、下心が、あるから?」
首を傾げながら答えれば、さゆは、ふはっと噴き出した。
「そういうこと、本当に思ってたとしても言っちゃう? 小春さんってやっぱ、かなり変」
「しょうがないじゃない、本心だし」
「本心なんだ。素直だね、小春さん」
私同様に箸を置いたさゆの手が、テーブルのうえで私の手にそっと重なる。指の腹が私の爪の先から指の輪郭をなぞり這う。遊ぶように、どこか淫靡に、誘うように。
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