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「したいだけならいつでも相手してあげるけど」
「えっ」
いいの? と思わず漏れそうになった口をつぐんだ。
ちがう、そりゃあしたいけど、したい気持ちでいっぱいだけれど、そうじゃない、それだけじゃないのだ、だから、だから。
指と指とが絡み合う。微妙に違うふたつの体温が混ざり合い境目をなくしていく。
肌と肌を合わせるのなら、手だって局部だって同じことだ、手を握るのとセックスするの、どう違うと言うのだろう。
どっちだってこんなにも淫らだ、さゆとするのなら。
彼の感触を堪能するように甘い息が零れた。直後、ぱっと離れされる手。
「冗談。なにその気になってんの」
我に返って顔が真っ赤になるのがわかった。手を握られただけなのに期待をした自分の浅ましさに、恥ずかしさに。
「だって今の触り方、」
「触り方?」
「え、え、え、えっちだった……」
「はは。小春さんがいつもえっちなこと考えてるから、そう感じたんじゃない?」
「ちがう、私がえっちなんじゃなくて、さゆがいつもえっちな良い匂いさせてるから、私はさゆがそばにいたら、えっちなこと考えざるを得ないと言うか、自然と思考がえっちなほうに行っちゃうというか、」
「じゃあ俺の近くにいるとき、いつもえっちな気分になってるわけ? ていうか、えっちえっち言いすぎ」
私は口のなかでもごもごと言い訳を探すけれど、結局なにも言えずに生姜焼き定食へ再び向き合った。多めに入った生姜が舌をぴりぴりと痺れさせる。
◆
貴重な休みを潰して無賃労働するなんて信じられない、なんて、はじまる前は思っていたインターンだけれど、気がつけば七月の終わりから八月の終わりに差し掛かるまで、私はほとんど母の事務所に入り浸っていた。
公式に告知して学生を集めて、という手順をとって行われているわけではないから、活動はかなり自由だ。他の予定があったらそっち優先していいよ、と月木さんがあっさり言うくらいには。
でも私もさゆも、かなりの頻度でインターンをやっている。私はもちろんさゆ目当てで、さゆは単純に熱心なのだ。母の事務所のインターン生は日によって、ただの便利な小間使いだったり、社会科見学の学生だったり、疑似予算計画や政策をプレゼンするおままごと政治家だったりする。
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