潮染む

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 さゆがなぜ熱心に取り組むのかはわからないけれど、やってみれば勉強になることも、社会に出てから役に立つのかもしれないと漠然と感じることも多い。さゆほどではないにしろ、私はそこそこ真面目に意欲的にインターン生をやっていた。  けれど、真夏の炎天下にチラシのポスティングを任された日は、ふたりしてさすがにげんなりした顔をつくった。日に灼かれて茹だるアスファルトを、母の笑顔が大きく印刷されたチラシを数百枚入れた紙袋を手にして歩く。 「ポスティングってこの世で最も無駄なことのひとつだと思う」  さゆが呟いた。 「私も同感。どのくらい効果ってあるの?」 「出前のピザとかならそこそこ効果ありそうだけど」 「じゃあピザのチラシにくっつけていれる? これ」 「むしろピザだけで良くないか」  綺麗めオフィスカジュアルな装いでまとめた私たちと、真夏の真昼の直射日光の下は当たり前に相性が悪い。いくら拭っても流れ続ける汗を拭いながら、住宅街を徘徊する。  この地域はマンションが多いからすぐ終わるのではないかと、期待をこめた楽観視をしていたけれど、ファミリー向けの大きくてしっかりしたマンションほどチラシ投函禁止だった。だから紙袋の中身は驚くほど減らない。開始してから一時間が経ち、チラシは全然減らず、汗とともにやる気と体力がどんどん失われていく。  控えめに言っても地獄みたいな仕事だ。さゆが「こんなのやっても意味ないよね。サボろうか」と提案してくれないかと念じながら、隣を歩く彼を見た。  ポケットのなかでスマートフォンが震えた。母からの着信。 「小春、順調?」  私は道の端で立ち止まる。 「順調じゃないよー。ぜんぜん減らない。このペースじゃ一週間かかってもこの量終わんないよー」 「頑張りなさい、足を動かした経験は糧になるわ」 「私はべつにお母さんのスタッフにはならないよー」 「あら、私は大歓迎だけど?」  ふふ、と電話越しの母が華やかに笑う。元・人気キャスターの母の声は電話やテレビなどのメデイアを通すと、過剰なほどの張りのある艶やかな音になる。 「まあ、お昼過ぎたらもっと暑くなって危険だし、いいタイミングで切り上げて、どこか涼しいところにでも遊びに行ってきなさいよ。夜長くんとふたりで」 「え、いいの?」
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