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「我が娘ながらわかりやすすぎて笑っちゃうわ。まあ、夜長くん綺麗だものね」
お母さん応援してるから、頑張って。そう言い残し、切れる通話。
通話終了ボタンを押すと、黙って様子をうかがっていたらしいさゆが尋ねてくる。
「いまの、先生? 要件は?」
「熱中症に気をつけて、だって。それと、午後は遊んでいいって」
「遊ぶ? 戻んなくていいの?」
「そうみたい。涼しいところに行ってきたら? ふたりで、って」
ふたり、をさりげなく強調しつつ、7センチヒールを履いた私よりも少し背の高いさゆを上目遣いに見上げた。
首筋を汗が流れ落ちる。濡れた肌がセクシーで、私の心は場所も時間帯も弁えず、思わずそわそわしてしまう。そしてもちろん、さゆはそんな私に気づいてしまう。
「匂い、する?」
「わりと。汗かいてるからかな? フェロモンって汗と一緒に出るの?」
特に強く匂い立つ首のあたりに鼻を近づけると、顔を手のひらで止められてしまい、それ以上の接近ができない。
「セクハラ」
「ハラスメントじゃない、触ってないし」
「された側が不快に感じたらセクハラなんだよ。変態」
「変態はひどくない?」
「変態」
「二度言わなくたって」
むっとして膨らませた頬を、さゆの指が引っ張って破裂させた。
「いたっ」
「じゃあ先生の指示通り、どこかで涼もうか」
ふたりして八月の太陽に悪態を吐きながら、それでも面倒な仕事を免除された開放感に浸りながら、やってきたのは都心から少し離れた場所にあるレジャー施設。プール営業の最盛期で、家族連れに若い男女のグループ、たくさんのひとの熱気で充満している。
「私たち、タオルとか水着とか何も持ってないけど」
「そんなん買えるでしょ。プール、いや?」
「いやじゃない、けど」
「けど?」
私は「なんでもない」と殊更明るく言って首を横に振った。さゆと一緒にいられるのであればなんだっていい、いやだなんて、死んでも言わない。
フロントで一日入園券を購入したら、水着や土産もの、プールグッズなどを雑多に集めたショップに入る。買うのは水着、タオル、その他もろもろ。早々に自分の水着を選び終えたさゆが、女性用水着のスペースで悩み続ける私のもとにやってくる。
「なにそんな悩んでんの」
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