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「運命なんて、くだらないね」
彼は片頬を綺麗に歪ませて言った。
「絶対的な運命でつながった相手。そんなの、最高にくだらない。なにが決めるの、その運命ってやつ。動物的本能? それとも神様? そんなのどっちも、クソ食らえだ。そう思わない? 思わないか小春さんは。だって本能に抗えない低俗なアルファだからね」
流れる音楽のように滑らかに優雅に落ちてくる侮蔑の言葉、その唇の動きに、冷ややかな声に、身体の芯が疼くのをどうしようもなく感じた。
堪えるように視線を外すと、私のこころの内を全部読んだうえで嘲笑うように、彼の手が頬をすべった。
ぬるい指先から、誘うような甘い香りがする。食べてしまいたい、なんて思う。ばかげてる。
低俗。否定できない。だって野蛮な暴力的な本能で、私は彼を欲している。
触れる手に自分の手を重ねる。それだけでどくんと心臓が跳ねる。力任せに掴んで、無理矢理に組み伏せることができたらどんなに良いだろう。
けれど力ではきっと敵わないから、私はただ、懇願するように、彼の瞳を見詰めた。黒目の中で美しい星が冷たく瞬いた。
「ほらまた、ヤりたくて仕方ない、俺が欲しくて仕方ないって顔してる。滑稽だ」
絶対的で、最高にくだらない運命でつながった、唯一の存在——私のオメガ。
彼に出会わなければ私の人生はもう少し、ましだったのかもしれない。
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