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こういったプールは痴漢が多いとも聞く。だから、水に入りたいという欲は一ミリも湧かない。多くの女性とは違うつくりの下半身に、もし偶然にでも触れられてしまったら——考えるだけで恐ろしくなる。
さゆも、あまりのひとの多さに少しげんなりした様子だった。
私たちは水に入ることを諦め、プールサイドの休憩スペースに並んだリクライニングチェアに腰をおろした。屋内、且つ水辺だからか涼しくて心地よい。
「私、今年はじめて夏っぽいことしてるかも」
「ああ。結構事務所いるよね。最初全然やる気なさそうだったから、いやいややらされてて、そのうち来なくなるんじゃないかって思ってた」
「それは否定できない……でも、さゆがいるから」
「俺に会うためにインターンしてんのかよ。暇なの?」
「暇なのは否めないけど。インターンじゃなくて普通に会ってデートしたいなっていつも思ってます」
「じゃあ、デートの夢が叶ってよかったね」
たしかに、これは紛れもなくデートだ。今になって考えてみれば、世界一無駄な仕事に思えたポスティングだって、私たちをふたりで体良く外に出すための口実だったのかもしれない。母のお膳立てに心のなかで合掌した。
ドーム型になった半透明の屋根から明度の高い日差しが降り注ぎ、はしゃぐひとの群れの間で揺れる水面に反射している。こんなにひとが多い水のなかには絶対に入りたくないけれど、水に浸かれたら、泳げたら、どんなに気持ちがいいだろう。
そもそも私は泳げるのだろうか。プールに入った最後の記憶は、中学一年生の水泳の授業だ。夏の海で水着を着て遊んだ思い出も同じ時期で途絶えている。つまりはもう十年近く、私は泳いだことがないということになる。水泳自体はけっして苦手ではなかったけれど、もしかしたら泳ぎ方を綺麗さっぱり忘れているかもしれない。
「小春さんもしかして、プールってかなり久々だったりする?」
「久々っていうか、こういうプールに来たのはじめて。学校のプールの授業に参加したのは中一が最後」
「じゃあ中二くらいから、あれが大きくなってスク水着れなくなっちゃったんだ?」
いたずらっ子みたいに、あるいは小馬鹿にしたようにくすくすと笑うさゆ。
「さゆは? 男の子っていつ頃から大きくなるの?」
たまには仕返ししてやろうと尋ねれば、
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