潮染む

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「あんたってほんとエロとちんこのことばっかだよな。思春期の男子並みに頭の中身そればっか」  逆にやり込められ、私は恥ずかしさのあまり顔を両手で覆った。 「そんなつもりじゃ」  「はやく成長して思春期脱しなよ」 「うう」 「せっかく来たんだし、なにかやらない?」  切り替えのはやい彼は、耳まで赤くしている私に構わず、施設のパンフレットを広げる。私たちの眼前にある巨大プールのほかに、数種類のウォータースライダー、ジャグジー、アスレチック、さまざまなアトラクションがある。 「俺、これ行くけど。どうする?」  指差されたのは、一番人気、定番と書かれたウォータースライダー。さゆと一緒だったらどこでも行くし何でもやりたい気持ちだけれど、明らかにひとが多そうで、悩む。  一瞬の沈黙。私の答えを待つのが面倒だったのか、待っても無駄だと判断したのか、口を開きかけたのと同時に、さゆは椅子から立ち上がる。 「ひとりで行ってくる。俺がいないあいだに誘拐されなんなよ」 「誘拐なんてされないよ」 「小春さんぼやっとしてるから。気をつけて」 「さゆも。かわいいんだから攫われないように気をつけてね」 「何言ってんだ」  結局さゆはひとりで行ってしまい、私はプールサイドにぽつりと取り残されることになった。  ひとりきりでいると、周りの喧騒がどこか遠くに感じる。跳ねる水しぶきの音と、賑やかな声に耳を傾け、映画館でスクリーンを見るように、目の前に広がる光景を眺める。  過ごしやすい温度、昼下がり。プラスチック製のリクライニングチェアの座り心地はけっして快適とは呼ばないけれど、背を預けたらひと眠りできそうだ。45度に傾いた背もたれに上半身を寄りかからせて、ゆっくりと息を吐いた。  人生で水着を着るなんてこと、プールに来るなんてこと、もう二度とないと思っていた。実際、今までに友人、かつての恋人、誰に誘われたって海とプールだけは固辞していたのだ。せっかくのさゆの誘いを断れなかっただけとは言え、濡れて肌に張り付いた水着が局部の形に透けたり、偶然に誰かの手に当たったりすることが怖いとは言え、ここに来られてよかった。  残り少なくなった夏の午後を全力で遊び楽しむひとたちが作り出す熱量の高い空気のなかにいるのは、なんだか心地良い。
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