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「えー? もしかしてさゆ、心配してくれたの? 大丈夫だよ、ただのナンパくらい」
「あんたの危機意識の低さに呆れる」
「だって私アルファだし」
「アルファのまえに女だろうが」
さゆは呆れた顔で大きな溜息を吐いた。
手を引かれ、連れていかれた先はシャワー室。狭い個室に押し込まれ、いきなり頭から水をかけられ、私は抗議の声を上げた。
「うわっ! ちょっと、いきなりなにするのっ!」
さゆは構わず水勢を最大にして、容赦なく私に水を浴びせ続ける。メロンソーダを被った肩だけでなく、髪にも顔にも胸にも脚にも水がかかって、いきなり全身が凍えそうなほど寒い。思わず両腕で自分の身体を抱きしめた。
「言っとくけど、あんた、自分がかわいいからナンパされたとでも思ってる? 違うよそれ、チョロそうだからナンパされてんの」
二の腕に回した手首を、さゆの手が掴みあげる。アルファだとかオメガだとか関係ない、男女の差を歴然と感じるその力強さに、少しだけ気持ちが怯んだ。
「まったく。チョロいのは俺相手だけにしてくれる?」
「え?」
「あんたと俺が一緒にいるって先生にバレてるんだし、あんたに何かあったら俺のせいにされるだろ」
「あ……そうだね、ごめん……」
私はびしょ濡れで、さゆも私ほどではないしろ濡れている。どちらも濡れて水滴を肌や髪から垂らして、見詰め合っている。
それははじめての出会いの瞬間を自然と想起させた。薄汚れた繁華街の片隅のラブホテル、安っぽいシャンデリア、発光する白いシーツ、咽せ返るほどに充満した甘い匂い。
あのときは見ることの叶わなかった、さゆの裸身。
健康的に引き締まった肩から腕のラインが綺麗だ。先程の男性のような雄々しさはないけれど、透明感のある肌がみずみずしい色香を放っている。男も女も関係なく見惚れてしまう妖艶さがある。
やっぱり彼はオメガなのだと、場違いな確信を抱いた。
——ああ。食べちゃいたい。
さゆと一緒にいる時間、多かれ少なかれずっと胸に秘めている。
食べちゃいたい、組み伏せて着衣の下を暴いて、彼を構成するものひとつ残らず、流れ落ちる体液の一滴すら残さず自分のものにしてしまいたい。
オメガに対するアルファの本能。
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