潮染む

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 私は一瞬で彼の舌づかいの虜で、奴隷にされてしまう。出しっぱなしのシャワーの水音に、じゅぶじゅぶと卑猥な音が紛れて響く。 「あ、出る、出ちゃう、あっ、っい、やめ、吸っちゃ、」  絶頂感がすぐそこに迫り、私は焦って彼の肩を何度も叩くけれど、彼は退かないし、激しい責めもやまない。それどころか仕上げとばかりに先端を強く吸われ、我慢できず、欲望を吐き出した。 「ああ……っ」  どくどくと波打つ。一滴すら残らず、口内で受け止められる。自分の手でするいつもよりも、吐精の瞬間は長く感じられた。  出し尽くしてしまった後、搾り取るように、すぼめた唇が根元から先端を何度か往復する。  そして舌先で綺麗に舐め上げて、やっとさゆの顔が私の目線以上のところに戻ってくる。あんなにテクニカルに淫靡なことをしておきながら、さゆはあっけらかんとした表情をしていた。 「たくさん出たね」 「もう、なんで飲みこんじゃうの、いつも」 「いつもって、たった二回だし」  男の手が顔に触れた。指先が目尻から頬を滑る。顎を持ち上げられる。 「気持ちよすぎて泣いちゃったの? かーわいい」 「だって、さゆの口、え、え、えっちすぎて」 「はは。気に入った?」 「最高でした……」 「それはどうも」  言葉とともに唇が落ちてくる。つい数秒前まで性器を良いようにいたぶっていた舌に、今度は私の舌が絡め取られ、翻弄される。  さゆの口内は海のような味がした。それはおそらく私の味だ。  せっかくキスしているのに、純粋にさゆの味だけを堪能できないのがとても残念な気がしたけれど、それは最初のうちだけだった。   次第に唾液はどちらのものかわからないほどに混ざり合い、互いの間の境界線がなくなっていく。触れているところから融け出して、ふたりの細胞と細胞が至るところで結合して、離れられなくなればいいのにと思った。  貪り尽くすほどに口づけ合って、離れたとき、私はどんなに名残惜しげな顔をしていたのだろう。 「自分の精液の味がするキス、そんなによかった?」  いたずらっぽく耳許で囁かれた科白に、私は素直に頷いた。もっと、と声に出したつもりだったけれど言葉にならなくて、でもさゆにはちゃあんと伝わる。 「強欲だなあ」   呆れたみたいに笑って、また口付ける。やまない驟雨のような水音に隠れて。  「私、プール大好きかも」 「入ってもいないのに?」      
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