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泥濘む
プールの翌日もインターンで、ふたりして日焼けし肌の色が一段階濃くなっている私たちを見て、月木さんはにやにやと緩む口許を隠そうともしなかった。
「ふたりで海にでも行ってきたの?」
「プールです。サマーランド」
「へえー、いいな、大学生って感じ」
「楽しかったですよ。ね、小春さん」
こともなげに言ったさゆが、微笑みながら私へと同意を求める。ふたりで遊びに行ったということは(元はと言えば母に仕組まれたことなので)事務所スタッフにとっては周知の事実だとしても、さゆの態度が堂々としすぎているために、水着デートで何か起こったんじゃないかという疑いは一切抱かれないらしい。
「ちょっとは進展あった?」
と私にだけ小声で尋ねてきた月木さんに、もしもシャワー室でのあれこれを話したとしたら、卒倒するかもしれない。
無垢な清純派みたいな顔をした事務所のアイドルであるさゆが、躊躇いなく私の性を弄んだこと。もしくは、「小春ちゃん、白昼夢でも見てたんじゃない?」なんて私の正気を疑われるかもしれない。
無意識のうちに唇に指を這わせる。
シャワーの水音に隠れて交わした長いキスは、彼の舌が疲れてしまうと呆気なく終わった。いつまでもキスしていたかったし、キスの先を熱烈に期待していた私は肩透かしをくらった感じだ。
唇が完全に離れた直後、濃密な口付けに理性をほとんど融かされた私が、期待をこめた眼差しで見詰めても、飽きたらしい彼には清々しいほど通用しなかった。
「そんな、物足りないって顔しても、今日はもうあげないよ」
そう言って出しっぱなしだったシャワーを止めたのが、完全なる終了の合図だった。
——今日は、ということは、次はもっと、くれるの?
次っていつ? 明日? 明後日?
その後、健全な水遊びを終えて帰宅した夜、さゆの口内の感触を反芻しながら、次への妄想を膨らませながら、自慰に耽ったのは言うまでもない。
しなくてはいられなかった。興奮状態がいつまでも収まらなかった。おかげで今日はまたも寝不足で、会って早々指摘されてしまったけれど。
「せっかく抜いてあげたのに、また夜通しオナニーしてたの? 凄い性欲だね、小春さん」
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