泥濘む

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 このままなんとなく就職活動に突入し、あまりに私が何も考えていないことに業を煮やした母が、適当な就職先を見繕ってくるのだろう。あるいは母の事務所にスタッフとして押し込まれるのかもしれない。我ながら呆れるほど、自分の進路としてしっくりくる道だ。 「そうだ、さゆ。付き合って」 「なにに?」 「だから、恋人になって」 「脈絡なさすぎてびっくりだわ」 「脈絡はあるよ? 昨日だってキスしたし」 「まあね」 「キスしたじゃん。めちゃくちゃ濃厚なのしたじゃん。腰抜けちゃうくらいえっちなのしたじゃん」 「濃厚でえっちなキスしたら付き合わないといけないとでも?」 「そうじゃないけど、でも、ともだちってキスしないでしょ? キスしたってことは、私たち、ともだちより先のステージに進んだってことでいいんじゃないかなって」 「この前まで発情すらしたことなかった箱入り娘の小春さんは知らないかもしれないけど、この世界には身体だけの関係とか、たくさんあるんだよ」 「じゃあ私たちは身体だけ?」 「身体だって大したことしてないだろ」 「私はさゆとお付き合いしたい。さゆのこともっと知りたいし、もっと一緒にいたいし、いろんなことしたい。だめ?」 「なんか自信満々すぎて腹が立つな。あんた、断られるなんて微塵も思ってないだろ」    私は首を傾げた。さゆの言動はいつも私の予想の範疇を超えてくるから、何と答えてくれるのかわからない。  別に自信なんてものはない。でも、完全に脈なしとも思えない。ひと月も横並びにインターン生として働いて、デートをして、キスをして、挿入はなくとも性的な行為もしている。まさか嫌いな相手の性器を撫で擦って舐ることはしないだろう。 「あんたと付き合って、俺にどんなメリットがあんだよ」 「メリット?」  そうきたかあ、と私は心のなかで唸った。はてさて、男女の付き合いにメリットやデメリットが必要だろうか。 「でもデートはしてくれるんでしょ?」 「そんな約束したっけ」  空惚けようとする彼に強い口調で念押しした。   「ご褒美! 今度の日曜日、デート! 絶対だからね」   ◆  待ち合わせのためにと交換したメッセージアプリの連絡先(やっと連絡先を交換できたのだ、やっと!)、夜長冴の名前を何度も開いては眺めるうちに、約束の日曜日はやってきた。
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