泥濘む

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 前日の土曜の朝の情報番組、お天気キャスターとしての私は過去最高に晴れやかな笑顔だったらしい。AD飯村さんに、「なんかいいことでもあった?」と尋ねられるほど。原稿に書かれた日曜の天気予報は晴れ、雲ひとつない快晴の予定だ。  自室で普段より時間をかけて服を選び、入念に化粧し、丹念に髪を巻いている私のもとに、珍しくリビングでのんびり寛いでいた母がやってくる。扉越しに私の様子を覗いて、意味ありげな薄笑いを浮かべた。 「あら、デート? 新しい彼氏?」 「まだ彼氏じゃない」 「それなら今日が決戦なのね、大丈夫よ、夜長くんも小春のこと結構気に入ってるみたいだから」 「ほんとに? ……じゃなくて、別にさゆと会うなんて言ってな、」 「違うの?」 「違わない、けど」  最後のひと束を巻き終え、ドレッサーの椅子から立ち上がる。母はデート仕様な私の全身を上から下まで見て、にっこりと微笑んだ。 「完璧じゃない。とっても綺麗だわ、さすが私の娘」  腹が立つほど自信満々なのは私ではなくて母のほうである、とさゆに言ってやりたい。    待ち合わせ場所はインターンをやっている母の事務所の最寄り駅前で、約束の時間の少し前に到着すると、さゆもほとんど同じタイミングでやって来たところだった。  彼はゆるりとしたサイズ感のティーシャツにスリムなテーパードパンツを合わせていた。インターンのときはお互いにオフィスカジュアルに身を包んでいるので、いかにも普段着といった印象のカジュアルな装いがなんだか新鮮に映る。 「今日もお天気お姉さんやってきたの?」  さゆの第一声にぽかんとする私。 「え? やってないよ?」 「気合入った女子アナ仕様だから」  「デート仕様と言ってください」  たしかに、シンプルなワンピースに毛先を巻き下ろした髪型、メイクだっていつもより念入りに施している。子供っぽくなくセクシーでもなく、清潔感のある大人っぽい、男性受けする格好を、とクローゼットの中身を吟味した結果が、女子アナ仕様。  悪口ではないけれど、指摘されると途端に気恥ずかしくなる。はたから見れば、肩の力の抜けた装いの彼に対して、隣に立つ私からはどんなに気負いが感じられるだろう。 「さゆはこういうの、嫌い?」 「別に俺の好き嫌いじゃなくて、小春さんがしたい格好すればいいよ」
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