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「あはは、そうかも。不思議だよね、海の生き物ってたまに得体が知れなくて、宇宙からきた謎の生命体みたいだなって思わない? 深海生物とか特に」
「その感覚はよくわかんないけど。くらげ、綺麗だね」
「でしょ」
「でもよくみると生き物特有のグロさがある。うねうねしてる触手とか、透けてる内臓とか」
「さゆは一言余計だってよく言われない?」
「言われないかな。いつもはいい子だから」
「そうだった。いつもは超猫かぶってるんだ」
くらげを見終えると、淡い色でライトアップされた珊瑚礁や、オットセイ。広大な岩場を模した水槽に数十匹のペンギンがいた。ちょうど餌やりの時間だったようで、ウェットスーツに身を包んだ明るい声の女性飼育員が観客に向かってなにか解説をしながらペンギンの群れに魚を投げると、ペンギンたちは嘴を大きく開いてそれを捕まえた。
水槽に齧り付くように見ている小さな子どもたちが歓声をあげる。それぞれの子どもの父親と母親が微笑ましそうに我が子を眺めている。
晴れた日曜日に水族館に出かけたことを、あの子たちも、大人になってからふいに思い出して懐かしくなることがあるだろうか。
「さゆは、家族とお出かけとかよくしてた?」
「あんまり記憶にないかな。両親とも忙しいひとで、こういう休日にみんなでどこかに行ったことは、ほとんどないかも。外食はたまにしてたけど」
「外食?」
「いや、外食って呼べるのかわかんないな。父親が何店舗かレストラン経営してて、そこによく連れていかれた」
「へえ! お父さん、経営者ってやつだ」
「よくわかんない事業をいろいろ手広くやってる」
「薄々思ってたんだけど、私に上流階級がどうとか言うけどさゆだって相当なおぼっちゃん育ちだよね?」
「なんで?」
「親戚に、K大生で、付属の小学校からずっと内部進学の子がいて。その子が、自分と同じく小学校からずっと付属上がりの子はほとんど、親が社長か医者か弁護士のどれかだって言ってたから」
「あと芸能人とかスポーツ選手とかも多いよ」
「やっぱり」
薄暗い照明の下で、さゆの顔はよく見えないし、私の顔もよく見えてはいないだろうけれど、私は親愛を込めて微笑んだ。
「私たちってなんだか、似てるね」
彼から言葉は返ってこなかった。
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