泥濘む

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 はじめて見下ろしたさゆは、驚きに目を丸くしている。かと思えば、怒りの色が表情を染めていく。 「何すんだよいきなり」  怒気を孕んだ低い声が鼓膜を揺らす、それさえも何故か小鳥の囀りに似たようなかわいらしさを感じた。美しくてかわいい、私のオメガ。 「さゆ、やっぱり発情期でしょ、今日すごい、やばいよ私、たまんない、おかしくなる、」  ネクタイの結び目に指をかけてほどく、白いワイシャツのボタンに手をかける。ひとつひとつはずさなければならないのがもどかしい。力任せに全部引きちぎってしまいたい。  腕力では敵わないはずなのに、今の私はなぜか、さゆのすべてを自分の思うままに支配できるのだという絶対的な確信があった。  そうであるべきだ、そうでなければおかしい。  さゆの何もかも、余すところなくすべて、私のものだ。  両手首を掴まれる。本気で抵抗されると腕は少しも動かせないけれど、それだけで私の確信が揺らぐことはなかった。  動かない手は諦めて、なにか言おうと開かれた彼の唇を自分の唇で塞いだ。熟れた果実にしゃぶりつくように、一心不乱に口づける。抵抗する舌を捕らえて思いきり吸う。手首は相変わらず拘束されたまま、けれどキスは抵抗されなかった。 「……っ、ふ、……んんっ……」  剥き出しの欲望をぶつけるように荒々しく貪り合い、どちらからともなく唇を離したときには、脳髄がどろどろに溶け落ちていた。  視界も意識も理性も蕩けて、ふやけた視界いっぱいに映るさゆがどんな表情をしているのかはわからなかった。 「ねえ、さゆ、さゆ。しよ? もう私、我慢できない」 「正気? プレゼンは」 「どうだっていいそんなの、手離して、お願い」  キスだけですでに爆発してしまいそうなほど屹立した性器を、スラックスの合わせ目に押し当て、擦り付けるように腰を揺らす。  発情した動物みたいだ。実際、発情した動物には違いない。アルファの本能だけで動いているのが自分でもわかる。  さゆの性器も固くなっているようだった。スーツの下に隠された互いの固いものが擦れるだけで気持ち良くて、甘ったるい吐息が漏れた。  でも足りない、全然足りない。互いを隔てる邪魔な布を全部取り払って、直接触れたい。 「さゆ、したい、さゆが欲しい、お願い、」
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