泥濘む

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 ふたつの性器を同時に、これほど強く刺激されたことがなかったから私は戸惑った。  雄の性器のなかで高ぶった欲望の波は引いたのに、雌の性器はまだ、欲している。愛液を滴らせながら、はしたなく求めている。彼は妖美に微笑みながら、私の蜜をたっぷりとまとわせた指先で頬に触れた。   「気持ち良いって、どっちが?」 「え? わかんな、」 「俺とセックスしたいって、それ、アルファとして? 女として? どっちでやりたいの?」  男の腕が背中に回され、抱えるようにして起こされた上半身がかたい胸に受けとめられる。 「犯したいの? 犯されたいの?」 「そ、れは……」  生殖機能的に、孕ませる側を雄、孕む側を雌と呼ぶのなら、私の身体には雄としてのアルファ、雌としての女、どちらの性も存在している。そして、オメガ男性であるさゆにも。  それはとても、ちぐはぐで、いびつだ。  だから、アルファ女性とオメガ男性は稀少なのだろうか。雄と雌、どちらでもあり、どちらでもない、中途半端な生きものだから。 「まあいいや、とりあえず一回出したしちょっとは落ち着いた? 今のうちに帰れば。そろそろ誰か来ちゃいそうだし」  両の二の腕を掴み、自分の身体から引き剥がそうとする彼に抵抗し、離されまいと逆に力いっぱい胴に抱きついた。 「やだ、やめないで、」 「送ってくから。今日は体調不良で休みってことにして」 「やめないでよ、さゆ、してよ、もっと触って、足りないよ全然まだ、ねえ、」  嫌だ嫌だと、しがみついて幼児のようにぐする私を見下ろし、溜め息を吐く音がした。 「舌、出して」  言われたとおり舌を突き出せば、別の舌が重なる。絡み合って、彼の唾液の味とは異質の苦みが口内に広がった。小さな錠剤が口腔の奥に捩じ込まれたのがわかった。  深い口づけは私の懇願に対する彼の首肯の代わりだと思ったけれど、そうじゃない。すぐに離れていく唇。  「効き目あるかはわかんないけど。ちょっと待ってて。すぐ戻るから」  そう言い残し、彼は会議室を出ていってしまう。 「待ってよっ」  口腔を謎の苦さが支配している。舌のうえに溜まった唾を飲み下すと苦みが喉を通り過ぎ、胸の真ん中のあたりで、言いようのない気持ち悪さに変わった。込み上げる嘔吐感。
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