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一
強烈な日光と蝉しぐれの降りそそぐ夏の午前に、策太は初めて見るその人とサシで向かい合った。ドアが開いた瞬間、一緒に来た仲間たちが「ヤベッ!」と一目散に逃げ出したからだ。
その人の第一印象は背ぇでっか! ということで、第二印象は優しそうな顔だということだった。イメージ的に仏様とかマリア様とかみたいな。緩やかに下がった眉尻とやんわりと上がった口角がそんな印象を与えた。えらく整った顔立ちはテレビに出てくるアイドルみたいでもある。それでいて髪型は女子が好むような感じではなく、全体は短く刈り込まれていて、ほんのちょっとだけ長い前髪は上向きに跳ねて、インドアな趣味よりも外でボールを追いかけ回す方が似合いそうだ。囲碁がとても強い高校生だと聞いていたから、同じ囲碁教室に通う子のお父さんみたいな、小柄で痩せた神経質そうな人を想像していたのに、全然違った。
お互い呆気にとられている者同士のあいだで、セミの声がより一層うるさく響いた。一番残る意味のないヤツが残ってしまったと策太は思った。この人を訪ねようと言い出した奴はとっくに去っている。策太はただ何となくみんなのあとに着いてきただけだった。
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