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晴海は二つの碁笥を両方とも自分の脇に置き、黒石をつまみ上げた。親指と人差し指に挟まれた石が、くっと引かれた人差し指の爪に乗り、くるりと回って中指の腹に受け止められた。石を構えて反り返った手から手首までのカーブが綺麗で、策太は目を奪われた。晴海は優雅で慎重な手つきで、策太から見て手前左隅の星に石を打った。カンッと澄んだ音がひんやりと涼しい余韻を残した。対局中は勝つことに夢中で気づかなかったが、こんなに綺麗な打ち方をする人だったんだ。 9子並べきると先ほどの対局をひとりで再現していく。だが、解説をしてくれたのはほんの序盤の辺りまでだった。 「ここ、追うのはすごく良かったよ。ただ、次は方向転換しないでこのままこっちを封鎖するほうがいい」 晴海は左辺に向かって大ゲイマに跳ぶ手を打った。対局中の策太は逆に右方向にある白が気になってしまった場面だ。
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