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気温がバカ高いせいとは違う、嫌な汗がにじむ。その汗でベタつく手を握ったり開いたりする策太に、彼はふっと笑みをもらし、口を開いた。
「きみは逃げなくていいの? お友達、みんな行っちゃったけど」
そう言ってニッと笑うと、第二印象とはうって変わってちょっと意地悪でやんちゃそうな顔になった。
その時、策太は何を思ったのか……後で思い返してみれば、馬鹿にしたような言い方に腹が立ったのかもしれないし、意外と子供っぽい笑顔に警戒心がかき消され親しみをおぼえたのかもしれないが、この時はただただ頭の中が真っ白だった……わななく喉をけんめいにこじ開けて言った。
「あの、井瀬晴海さんですか?」
「そうだけど?」
「おれ、井瀬晴海さんに囲碁を教えてもらいたくて来ました!」
言い切った言葉の勢いと目力がすごかったので、晴海はうっかり流されて、
「べつに、いいけど……」
と言ってしまった。言ってから、ていうかこの子誰? という当然の疑問が湧いてきた。
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