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午前十時半。暑いさなか、ピンポンの連打で二度寝を妨げてきた、がきんちょどもの逃げ遅れ。単なるイタズラかと思い、逆にこっちから驚かしてやろうとあえて出てきたのに、この子はまるで本当に切実に碁を教えてもらいたくて来たかのような言い草をする。嘘っぽい。けどまあ、おともだちには見捨てられてるし、バケツ一杯の水を頭からかぶったかのように汗だくだし、このまま追い返すのは可哀想な気がしてきたから、晴海は男の子に上がるよう促した。
「えーと、何くんだったっけ」
キンキンに冷えた麦茶と茶菓子を出してやって、晴海は訊いた。
「策太。山口策太です」
やっぱり聞いたことのない名前だ。晴海が碁打ちだということを一体どこで聞きつけて来たのやら。それはともかく。
「ちょっと待っててね。寝間着のままだったからさぁ、着替えてくるわ」
と言い置いてリビングを出た。歩きながらスウェットパンツのポケットからスマホを取り出し、実家の母にLINEした。
《あのさぁ》
《知らない男の子がうちに来てんだけど》
《囲碁教えてほしいって》
《なんか心あたりとか》
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